現代ステリー小説の読後評2023

※タイトル横に【ネタバレ注意】の表記がある作品はその旨ご注意を
(10pt太字があらすじで12pt通常文字がコメントです)

2023年月読了作品の感想

『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』(辻真先/東京創元社)
【ネタバレ注意】★★

  「このミス」2021年版(2020年作品)1位作品。 昭和24年の名古屋が舞台のミステリということで、時代物にも名古屋にも特に興味がない自分としては、やや抵抗があったが、選挙の投票立会人の仕事の合間に時間を潰すために2年ぶりに新しめのミステリを読もうと探していたときに、ちょうど文庫化されたばかりのランキング上位作品を発見し、しかも、それが史上最高齢88歳でミステリランキング3冠 を達成したという話題作だったこともあってamazonで購入した。
 作者が88歳ということもあって、昭和初期のうんちくがやたらと目立つのにも納得。映画好きな人しか反応しないだろうなあと苦笑してしまう内容も多いが、自分が生まれる前の1960年代からアニメの脚本家として活躍されていたことに驚き、さらにそのような作者が、現代の若いライトノベル作家のようなみずみずしい作品を完成させたことには素直に驚かされた。

 主人公は、 推理小説作家を目指す高校3年生の風早勝利。風早が思いを寄せる転校生の咲原鏡子、風早の親友の大杉日出夫、大杉の彼女の薬師寺弥生、風早に思いを寄せる神北礼子を含めた高校生5人組が、学校祭の準備の中で二つの殺人事件に出会うという物語。
 第一の殺人は密室のモデルハウスの中で評論家の遺体が発見されるというもの。そして第二の殺人は、台風の中、高校生達が学校祭のための写真撮影を行っている最中に、市会議員のバラバラ死体を発見するというもの。
 男勝りの女教師別宮操は金田一耕助の助手だった那珂一兵という映画館絵描きをを呼び寄せ、事件を解決に導く。

  この数年ミステリを読まなくなったのは、単に時間がなくなったこともあるが、それ以上に面白い作品に出会えなくなったことが大きい。過程も面白くない上に、やっとたどり着いた結末がたいしたことがなかったら最悪である。
 本作はそこまで酷くはないが、それに近いものがある。失礼を承知で言わせてもらうと、本作の1位は大御所への忖度に加え、「最高齢○冠」というキャッチフレーズがミステリ業界を盛り上げるのに一役買うであろうという業界の思惑も見え隠れするような気がする。
 まず気になるのは、作者が書きたかったであろう昭和24年前後の社会情勢や風俗事情が、ベタな青春ドラマと共に延々と書き綴られている点。ミステリにありがちな「もっとコンパクトにまとめられたのでは?」という印象が強い。
 肝心の二つの事件のトリックについても、やたらめんどくさいもので、種明かしを知っても何の感動もない。「読者への挑戦」も何も、そんなトリックは誰も見破れもしないし、見破れなくとも悔しくもないわという感じ。
 一つ目の事件の時に登場する探偵役の那珂は、事件の謎を解いたことをほのめかしたまま現れなくなり、その事件のことは放置されたまま話は進み、二つ目の事件の前に再登場するが、印象が薄く魅力に乏しいのも残念。彼が関係者を集めて真犯人を指摘するという緊張すべき場面で、またまた懲りずに映画の話に夢中になる登場人物達に大いなる違和感を抱かされたのもマイナス。
 タイトルの「たかが殺人じゃないか」というセリフが本編に登場する部分と、ラストで紹介される風早の書いた推理小説の冒頭部分のアイデアについては、おっと思わされたが、印象的だったのはそこだけ。若い作家に負けない活力は評価したいが、ミステリ好きにぜひ読んで!とは勧めづらい。

 久しぶりの評価で基準を忘れてしまっているので過去作品と整合性がないかもしれないが、個人的な3段階評価は1.8くらいで★2つ。5段階評価なら2.9か3.0くらいか。