<ある釣り場での出来事>
釣り人というのは結構、マイポイントなる釣り場を持っているようです。それ
も、あまり人に知られていないような隠れた穴場的な釣り場を…。私にも5年
ほど前に開拓した「マイポイント」があります。その場所は小さな突堤が1本だ
けある、ひっそりとした静かな山間の漁村です。そこへはシーズンになると毎
週のように出かけ、そのうち地元の人達(おじいちゃんが殆どです)とも顔見
知りになり、顔を見かけると「あんちゃん、また来たか。」と声をかけてくれる
ようになって、私にとって第2の故郷?(いなかに帰った時のような)とも錯覚
するような、落ち着ける居心地のいい場所となっていました。
釣り場には毎週通えたぐらいですから釣り人は少なく、釣果は思いのままで
した。しかし、3年ほど前から結構な人が入り始め、釣り場として賑わうように
なって来ました。そしてそのころより地元のおじいちゃんから「最近のヤツらは
程度が悪い」とグチ?を聞くようになりました。また、その突堤を仕事場として
いる、日頃あまり話しをしない漁師さんからも「夜、騒がれることがあって困る
。突堤を汚されて困る」といったお小言も聞くことが多くなって来ました。
そして昨年6月の中旬。いつものように突堤へ向かう途中、小さな手書きの
看板を発見しました。その看板は地面に近い位置的に低いところに取り付け
られていたため目立ちませんでしたが、毎週のように通っていた私は直ぐに
気がつきました。そこにはこう書かれていました。「注意! 突堤での釣りを
禁止する」
確かに先週来たときはありませんでした。仕方がないので、突堤に入ること
を止め、浜からの竿出しとし明るくなるのを待ちました。そして、いつも早朝に
海に散歩しにくるおじいちゃんに看板について聞いてみました。すると顔見知
のじいちゃんは「あんちゃんにはウルサく言うつもりはないけど、これからは厳
しくなるやろ」「ちょっと最近はひどいもんで」との事。どうも看板は海に一番近
いところに住宅を構える漁師さんが取り付けたもののようでした。
その日を境にそのポイントへの釣行は自粛することにしました。よく釣れる
釣り場だったので残念であるとともに、里帰り出来る田舎を失ってしまったみ
たいで、悲しい気持ちになりました。ところが、その後、そのポイントで県外か
らこられている人が釣りをしていた、という情報を仲間うちからよく聞くように
なりました。
私もどんな状況になっているのか気になり、5ヶ月振りに現地の様子を見に
いったところ、ボート釣りで毎週来ているという人からは、しょっちゅう突堤で
釣りをしてるのを見かける、との話がありました。これはどういうことなのかハ
ッキリさせたくなって、看板を取り付けられたと思われる漁師さんに直接確認
してみることにしました。
早朝、いつものように漁師さんが歯磨きに外に出てこられるタイミングを待
って、私自身の身元、そしてこれまでの経緯等を改めて話した上で、看板に
ついて尋ねてみますと、やはり「まずは突堤を汚すこと(ゴミの放置、イカ釣り
の墨、アジ釣りのアミエビ)。ゴミは持ち帰るのが当たり前やし、突堤が汚れた
ら汚した者が水を流すなりしてキレイにせなアカンやろ。いやらしいヤツにな
ると船小屋にゴミをまとめてほかしていく不届きモンもおる!」とかなりご立腹
のようでした。しかし、全ておっしゃられる通り、自分の職場や自宅の周りで
そんな事されて怒らない人なんていないでしょう。漁師さんが怒られるのも当
たり前です。
そしてそれに加えて「夜中に複数で来て、ガヤガヤやられると眠れんので
困る。本人らは騒いどるつもりは無いんかも知れんけど、静かなときは普通
の話し声でも気になるもんや。何回注意しても直らん。睡眠不足は漁師にと
って大きな事故の元やで、かなわんのや」との事。これももっともなお話です。
そして「夜中におもっせえところ(変なところ)に車止められて、エンジンかけ
たまま、ちゅうのもウルサくって迷惑や」「ほんでもって最近は漁で取ってきた
サザエやらだけでなく、何につかうんか判らんが漁具まで取っていくヤツがお
る。漁師の仲間ウチには無線だけじゃなく船まで取られたヤツがおる」など、
いろんな含みもあって看板を取り付けた、との事でした。
そのような理由を充分聞かせていただいた上で、ムリを承知で「ここはよく釣
れるし、落ち着ける雰囲気もあって好きなところ。これまでも、漁師さんが困っ
ていらっしゃることには遊ぶ側の基本的なマナーとして、個人的に気を配って
きたつもり。これからも、そういった事には気をつけていくと共に、逆にそいう
った人を見かけたら積極的に話して注意していきたい。こんないい場所を失い
たくないので、何とか、遊ばせていただく訳にはいかないでしょうか?」とお願
いしました。
その結果、漁師さんからは「そんなふうに、ほんまに気をつけてくれる人には
、別に釣りしてもらってもいいんや。かまわへん、仲間内にもそう言っといてや」
と笑顔で答えてくれました。
この話を元に、これ以上どうこう言うつもりはありません。ここまで読んでいた
だけた方はこういった問題の大切さを充分認識していただいていると思ってます。
このことだけではありません。私事ですが10年ほど前には、敦賀在住の投げ
釣り師としてめずらしがられたのか?「フイッシュ・オン」さん、「つりのとも」さん
には半連載という形で原稿を依頼されて寄稿していた時もありますし、過去に
「釣りサンデー」さん、「東海釣りガイド」さん、「関西の釣り」さんから取材を受け
その様子を掲載いただいたこともありました。そんな頃、釣り場で私が執筆者と
知らずに、「本に書かれていたから来た」という人が、実際私の横で私の書いた
仕掛けで魚を釣られて喜ばれ、内心、本人以上に嬉しい思いをしたこともありま
す。
そんな反面、私が寄稿したことで、それまであまり目立たなかった「明らかに
釣りに関係すると思われるゴミ」が寄稿紹介したポイントに増えたなど、自責の
念に駆られたことも…(そう考えるようになって、執筆はヤメました)。
これ以外にも、マナーに関してよく言われることや考えさせられることが多々
あります。自分がされて不快に思うことは、他人も不快に思うことが殆どで、そ
の逆も然りです。また、他の人に直接迷惑をかけなくても、不注意でトラブルを
起こしたり、海難事故に遭ったりすればその釣り場は瞬く間に立ち入り禁止と
なって、結果的に本人は勿論、多くの人から楽しみを奪ってしまうことにも繋が
りかねません。
日常の社会生活でのストレスを身近に解消してくれる「釣り」という行為、並び
に「魚」というターゲット、「釣り場」というステージが、遠く離れたモノにならない
よう、皆が楽しみを継続して共有していけるよう考えていきたいと思っています。
※’03年.6月、この釣り場に釣行した際、漁師さんから「やっぱり、突堤での
釣りは禁止とさせてもらうことにした」との話がありました…。
今回の措置はとても残念でなりません。ただ、地元の方とは顔見知りでも
ある以上、たとえ人のいない夜間でも、たとえ仮に他の釣り人がサオを出
していようとも、突堤での釣りは一切ヤメようと思います。
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