2014年2月読了作品の感想
『リカーシブル』(米澤穂信/新潮社)
【ネタバレ注意】★★
「このミス」2014年版(2013年作品)7位作品。最後まで一気に読ませる面白さ。これは★★★確定だと思いながらラストシーンに突入したら、あまりのあっけなさに拍子抜け。そういえば同じ米澤作品である『インシテミル』や『ボトルネック』もこんな感じだったような気がする。こういう作風なのだろうが、これはやはり賛否あることだろう。個人的には、ハッピーエンドでも、そうでなくてもかまわないので、もっとすっきりした読後感を味わいたい。あらすじは以下の通り。いつも通りネタバレがあるので、これから本書を読むつもりのある方はご注意を。
会社のお金に手を出した父が失踪し、血のつながっていない母と弟のサトルとともに母の故郷・坂牧市に引っ越してきたたハルカは、中学1年の新学期にリンカという友人ができ、新生活は順調なスタートを切ったかに見えた。そんな中、小学3年のサトルは、登校途中にある報橋(むくいばし)では人が落ちたことがあ
るというように知っているはずのない過去のことを知っていたり、ハルカと一緒に行った商店街の福引きで誰かが大当たりすることを予言したり、福引きの会場から逃げた置き引き犯の居場所と
彼が持っている凶器を言い当てたりと、特殊な能力を発揮し始める。社会科の三浦先生に何気なく予知能力のある子供の話を切り出したハルカに対し、三浦先生は、この
坂牧市の常井地方に伝わるタマナヒメの伝説について書かれた本「常井民話考」を貸してくれた。それによると、江戸時代に常井村の不正を免除してもらうためにお役人
に陳情し村を救ったお朝という女の子が自殺した後、タマナヒメの生まれ変わりだと村人が言ったという話があり、その初代のタマナヒメは平将門の娘であり、常井村の人々が匿ってくれた御礼に、生まれ変わっても村を守ると約束したという伝説
があるということであった。その後、寂れたこの町には、高速道路誘致に積極的なグループとそうでないグループがあること、そして、積極的なグループが五年前に町に呼んだ水野教授が報橋から転落して死亡し、誘致に有利になる「水野報告」と呼ばれる報告書が行方不明になり大人達が必死に探していることが明らかになる。
三浦先生からタマナヒメの話を改めて聞くことになったハルカは、お朝の話がマイナーなものであること、有名なのは明治期に鉄道反対運動に荷担した芳子の話であることを教えられ、他に2人のタマナヒメの名前の書かれたプリントをもらう。タマナヒメと思われる女性の要望を聞き入れた男性のうち3人は佐井川へ転落して溺死していた。その後ハルカは図書館で水野教授の事故について調べ、サトルの言う、報橋から落ちた男性が「太ったおじいさんで学校の先生」という話が正しかったことを知る(ここでハルカが、三浦先生からもらったプリントに載っていた謎の多い4人目のタマナヒメ・常磐サクラの焼身自殺が新聞記事に出た日と、水野教授の死亡日が同じであることに気がつかないのは不自然だと読者は思うだろうが、後で気がついていたことが分かる記述がある)。そしてリンカは、三浦先生の話とは全く異なるタマナヒメの現状について教えてくれた。タマナヒメの伝説は形骸化し、今では町の宴会の挨拶係になっており、現在のタマナヒメ・宮地ユウコという女子高生をハルカに紹介してくれたのである。リンカとユウコと別れた後、ハルカは坂の途中で立ち尽くしているサトルに出会う。そこから見える家にサトルは過去に住んでいたと主張する
。
リンカとフリーマーケットに出かけたハルカは、そのフリーマーケットが「誘致を考え直す会」を妨害するために急遽企画されたことを知る。そして、その夜、報橋の上で車が炎上するのを目撃するハルカ。ハルカは、次の日学校で、その車の事故を起こし入院したのは三浦先生であることを知り驚くが、帰りに事故現場を訪れ、そこで先に
帰ったはずのリンカがサトルの耳元に何かをささやいている姿を目撃
する。三浦先生のお見舞いに行ったハルカは、三浦先生から衝撃の事実を知らされる。警察が信じてくれたかどうかは分からないが、何者かに車をぶつけられ事故を起こしたこと、ハルカに貸した「常井民話考」という本は坂牧市内の全ての図書館・図書室から盗まれて存在していないこと、またその本の編纂に関わった人全員が不審死していること、その本の後に刊行された「坂牧民話集」にはなぜかタマナヒメに関する記述が一切なく現在でも普通に購入できること、先代のタマナヒメ・常磐サクラの焼身自殺の真相は放火によるものであるという噂が広く信じられているということなどである。
そしてタマナヒメは庚申日の七日前から肉と魚と五葷(ごくん=ニラやネギなどの匂いの強い野菜のこと)を絶って身を清めるという話から、ハルカはあることに気がつく。そして常磐サクラが焼死した時に目撃者がいたことを言い当てるハルカ。
ハルカの家に、疾走している父から離婚届が送られてくる。母は父と正式に離婚することで、血のつながりのないハルカに中学卒業までしか面倒を見ないことを暗にほのめかす。翌朝リンカが欠席しているクラスはハルカに冷たかった。そして帰宅するとサトルが誘拐されていることが分かる。それなのにサトルを探そうとしない母。ハルカはすべてを理解する。サトルは間違いなく過去にこの町に住んでいた。だから過去にこの町で起こったことを当然知っている。そして町の人たちが、意図的に過去の出来事を再現していることの結末も予言できてしまうのは当然であった。一度もサトルを連れて来たことがないというのは母の嘘だ。常磐サクラの死を目撃し、いつその詳細を思い出すかも分からないサトルを、母はこの町の狂信的な「講」に売ったのだ。ハルカは、サトルが過去に住んでいたらしき家に忍び込み、サトルが隠していた「水野報告」が入ったMOを発見する。そして、深夜、真のタマナヒメ・リンカに取引を持ちかける。タマナヒメを自称するユウコが平気で本来絶つべき肉のサラミを食べ、リンカがフリーマーケットで注文したソバからネギをのけていたのを思い出したハルカは、リンカこそ本当のタマナヒメであることに気がついたのである。リンカと「講」の計画は、サトルに、過去と同じように庚申堂の中でタマナヒメのリンカが焼死する様を見せてMOの隠し場所を思い出させようという恐ろしいものであった。しかし、MOを渡すとリンカはあっさり計画を中止し、サトルを解放。ハルカは、サトルを背負って帰途につく。タマナヒメの転生について思いをめぐらせながら。
冒頭で述べたように、やはり結末がそっけなさすぎる。「講」の全貌も、タマナヒメの転生についても謎のまま。それは、作品の余韻としてそのような扱いにするのも理解できなくはないが、あっさりと手を引いて姿を消してしまうリンカがあまりに物足りない。また、町を挙げての陰謀という壮大なトリックは非常に面白いアイディアだと思うのだが、その不気味さ・恐怖が今一つ伝わってこない。映画的に、もっと町の人々の狂信的な怖さを表現した方が良いのではないか。町の汚れ仕事を引き受けているらしいマルさんという人物も2回ほどちらりと出てくるだけ。せっかくの面白いアイディアなのに、とにかく中途半端な感じが否めないのだ。姉弟愛を描いた作品と言う見方もしたいのに、あちこちで弟想いハルカの姿を描きながらも、こちらも今一つ中途半端で感動できるところまでいかない。エピローグでそれを表現するのかと思いきや、ハルカ視点による、この町の謎の再確認の解説のような形になっていて、どうにもすっきりしない。オススメするに値する作品だが、個人的には、ものすごく惜しい1冊。
『生存者ゼロ』(米澤穂信/新潮社)
【ネタバレ注意】★★★
2013年第11回「このミス大賞」受賞作品。勤めていた国立感染症研究所を追われ家族も失った感染症学者の富樫裕也と、若い部下を自分の不注意で失った陸上自衛隊の廻田三等陸佐の二人を軸に物語
が進んでいくパンデミック(流行病)・サスペンス。
いろいろと突っ込みどころはあるのだが、それらを差し引いても十分に面白かった。大絶賛というわけにはいかないが、個人的にギリギリの★★★。次回作に期待したい。あらすじと具体的な突っ込みどころは以下の通り。
【第1章】 国立感染症研究所
の予算削減に抗議して更迭された富樫は、妻子を連れて中部アフリカのガボンに移住。そこに研究施設を建て、新種の微生物を探す研究を行っていたが、妻は新種の感染症に感染して死亡、ジャングルを彷徨った末、気を失った富樫が救出された時には、背負っていたはずの3歳の息子は行方不明になっていた。その2年後、北海道沖に浮かぶ東亜石油の石油掘削プラットフォームTR102基地から連絡が途絶えた。たまたま近くで演習を終えたばかりの廻田が隊員10名を率いて乗り込んだが、そこで見たものは職員全員の皮膚が溶解した無残な死体であった。
事件から6日後、つくば市の理化学研究所に職を得ていた富樫は、強制的に官邸に連れて行かれ首相から協力を要請される。かつての勤務先である国立感染症研究所へ移送された富樫は、かつて自分をその座から追い落とした細菌第一部長の鹿瀬からも協力を求められ、しぶしぶその仕事を引き受けるが、事件から4週間後、鹿瀬の挑発に乗って暴行を働いた富樫は研究所を追い出されてしまう。事件から30日後、ようやく隔離病棟から解放された廻田は、感染こそ免れたものの、作戦に参加していた若い部下の館山三曹の自殺未遂に衝撃を受ける。しかも、館山の希望で廻田が彼を屋外に連れ出した時、廻田が目を離した隙に館彼は再び飛び降りて死亡。廻田への処分は、市ヶ谷の中央情報隊への転属であった。
【第2章】 事件から9か月後。北海道の川北町で再び惨劇が起こる。上司の命令で空中から現場の撮影を命じられたのは廻田であった。官邸で危急の課題は国会対策ではなく今後の防疫体制であることを訴える廻田であったが、首相は相手にしようとしない。再び官邸に呼ばれた富樫であったが、首相の責任を追求しようとする不躾な態度に、すぐに追い出される。さらに、妻子を失って以来、精神の安定を保つために麻薬に手を出していた富樫は、その後警察に逮捕されてしまう。一方、政府に愛想を尽かした寺田陸上幕僚長に、極秘に情報収集を行うよう命令された廻田は、2度目のパンデミックから1週間後、防護服を着用してその現場に足を踏み入れる。そこで抱いた感想は、感染症が発生したと言うよりは、敵軍に夜襲をかけられた混乱を想像させるというものであった。そして実際に信号機の横に取り付けられたCCTVカメラの映像を確認すると、狂ったように走り回り、その後恐ろしい勢いで人々の肉体が破壊される人々の様子が映し出された。いったい、人々は何に怯え屋外に飛び出したのか。この町ではいったい何が起こったのか。
【第3章】 2度目のパンデミックから2か月後、今度は北海道の足寄町で3度目のパンデミックが発生し、官邸はパニックに陥っていた。最初の通報から7時間で感染者の数は少なく見積もっても8万人、しかも全員死亡である。寺田は自衛隊全部隊への治安出動待機命令を首相に要請するが、首相は、事態への対処はあくまで自治体を主体とすべきという姿勢を崩さず、政府主導の対応を懇願する北海道の田代知事を黙らせた。首相に失望した寺田にとって、残る希望は廻田だけとなった。その頃、富樫は国立精神神経センター八王子病院で禁断症状と闘っていた。そこを訪ねてきた鹿瀬と、かつて富樫の部下だった山形。山形が残していったメモに富樫は激高する。4年前に予算削減に対する抗議行動を起こして富樫が更迭されたのも、その後釜に鹿瀬が納まったのも、富樫がコカイン常習者であることを警視庁公安部に告発したのもすべて鹿瀬の謀略であった。しかも、妻の発症に際し富樫がガボンから出していた救助要請を握りつぶしたのも鹿瀬だったのだ。そして富樫は、「お前がすべてを殺すのだ」と語る神の幻覚を見る。
感染地帯に取り残された発症していない人々も非常線を超えて移動することは許されず、治安部隊と衝突を起こしていた。そのような状況の中、廻田は専修医の伊波から発見された細菌についての報告を受ける。TR102、川北町、足寄町の遺体から発見されたものと、川北町の土壌から発見されたものが異なること、また、この細菌は大気レベルの濃度の酸素に触れると20分程度で死滅すること、つまり土壌中から気中に出たあと僅かな間に人間に感染し劇的に活動することなどである。そして廻田は、全てのパンデミックが新月の夜に起こっていたことに気がつく。
次の新月までに謎を解かなくてはならない廻田は富樫を保釈させ協力させる。脱走し鹿瀬を殺そうとした富樫を捕らえた廻田は、富樫に対し、北海道へ連れて行くことを宣言する。
【第4章】 TR102に調査に向かうに当たってセレネスを注射された富樫は平静を取り戻す。TR102でシロアリの大群に襲われ、辛うじて帰還した2人は、昆虫学者の弓削亜紀の協力を得てついに1つ目の謎を解く。TR102の被害者は感染症によって死亡したのではなく、東亜石油が地下五千メートルから掘り当てた細菌に感染し凶暴化したシロアリに襲われたことが判明したのである。次は2つ目の謎、シロアリが北海道へ上陸するのが不可能である以上、どうやって細菌は上陸できたのかということである。弓削は削孔水を処理する産廃処理業者の関与の可能性を指摘する。弓削の父は、
乗っていた船が、この産廃処理業者・高城興業の所有する船と接触事故を起こして死亡しており、彼女は高城興業を怨んでいたのだ。
その後の調査で、高城興業の船から別の産廃処理業者・北見興産が削孔水を抜き不法投棄していたことが判明。
【第5章】 運命の日が翌日に迫り、首相官邸とTV会議に臨む廻田、弓削、伊波、医務官・広瀬の4人であったが、首相の大河原をはじめ、危機的状況に判断を下せない政府の連中を見限るしかなかった。廻田と伊波はシロアリ撃退の任務に就き、広瀬は師団司令部へ、そして弓削は富樫と共に青森へヘリで非難することになるが、陸上自衛隊の防衛線はシロアリの大軍にあっけなく突破され、弓削と富樫の乗ったヘリは羽アリの大群と衝突して墜落。弓削と富樫の救出に向かう廻田であったが、その途中、次々にシロアリに襲われて部下を失う。2人の無事を確認したものの、特殊爆弾によって札幌を焼き払う決断をした首相に呆れる廻田。その時シロアリ同士が争っている様子を見た弓削は、シロアリが集合フェロモンと警報フェロモンを分泌していることに気がつき、それを利用すればシロアリを誘導して殲滅することができると提案する。しかし、彼らの潜んでいた場所にも遂にシロアリが襲ってくる。富樫は赤ちゃんを救って絶命するが、廻田と弓削は脱出に成功、弓削の提案が首相を動かし爆撃も中止された。
【終章】 ガボンの富樫のかつての研究施設を訪れる廻田。廻田は富樫のノートの最後のページに、富樫の走り書きを見つける。「これこそが人類の運命を決する。下弦の刻印の意味を知るべきだ」
突っ込みどころとして、まず気になったのは、第1章で感染症研究所に呼ばれた富樫が、どれくらい研究を進められたのかもよく分からないまま、鹿瀬の策略であっという間に放逐されてしまうところ。必死の研究の末、もう少しで富樫が真実に到達しそうな状況になった時に、ライバルにその成果を横取りされるという展開なら分かるのだが、そこまで富樫が苦労した感じも表現されず、何の前触れも盛り上がりもないまま、政府の肝いりで研究所に戻ってきた富樫が突然追い出されるのは違和感ありまくり。第2章の冒頭にも違和感。警察署が駐在所から受けた電話の向こうから聞かれる銃声。シロアリの大群相手にいくらパニクったからといって警官が発砲するだろうか。事件の原因は病原菌以外の可能性もあると
(テロリストによる攻撃とか)、読者を強引にミスリードしようとしている感じ。そして、政府の愚かさをさらけ出す第3章。結末での政権交代の描写からも分かるように、失策続きで自民党から政権を奪回された民主党を
暗示しているのは明らかだが、ここまでまともな判断のできない首相はそういないだろう(第5章での首相の暴走ぶりも半端ない)。第4章以降で、廻田と弓削が
急に惹かれ合うようになるのにも違和感。もう少し人間ドラマを描き込まないと、薄っぺらなロマンス小説になってしまう。同様な理由で、第5章の4人のチームの描かれ方にも違和感。いかにも苦楽を共にした結果、結束の堅いチームになったみたいな話になっているが、そこまで結束が固まるような描写がどこにあったのか。あれだけ暴走していた首相が、ラストで簡単に爆撃中止
要請を受け入れるのも拍子抜け。そして一番の問題の終章。富樫の残したメッセージが象徴的すぎてよく分からない。本作の原題は「下弦の刻印」
という名称で、ネット上には、このままの方が良かったという意見も多いが、分かりにくいキーワードをタイトルにするよりは、B級パンデミック・サスペンス小説(テイストの似た『ジェノサイド』などと比較するとどうしてもそういう位置づけになる)であることがストレートに読者に伝わる「生存者ゼロ」の方が良いという編集者の判断だったの
だろう。
『アリス殺し』(小林泰三/東京創元社)
【ネタバレ注意】★★
「このミス」2014年版(2013年作品)4位作品。主人公は大学院生の栗栖川亜理(くりすがわあり)。いつの頃からか、夢の中で「不思議の国のアリス」の世界に迷い込むようになり、その世界の中でアリスとして彼女は生きている。そして、その不思議の国で次々に登場人物が死亡し、アリスが容疑者扱いされる。ここまでは何とか理解できるとして、この先がすごい。夢の中で誰かが死ぬと、現実世界でも亜理の身近で誰かが死ぬのである。しかも、死亡した人物も含め、亜理の身近には亜理と同じ夢の世界を共有している人物が数多く存在しており、彼らは不思議と簡単にその事実を認めていく。最初に夢の世界の共有の事実を亜理に知らせた井森建は、この現象を「アーヴァタール現象」と呼んだ。これは一体どういうことなのか。とにかく奇想天外な舞台設定である。さらに文章も独特で、ほぼ会話文のみ、地の文は最低限しかない。不思議の国の世界での、頭のおかしい登場人物達のふざけた会話の応酬には、慣れるまでかなりイライラさせられもする。「不思議の国のアリス」の世界観もある程度知っていた方が良い(きちんと呼んだことがなかったのでネットで一応予習)。
最初に、現実世界と不思議の国の世界での、序盤の登場人物の対応表を記録してお
く(ちなみにこれらは本書の前半部において自己申告されたものであり、この中に嘘をついている人物がいる)。@栗栖川亜理(中沢研の学生)=アリス(探偵を気取る帽子屋と三月兎から、ハンプティ・ダンプティとグリフォンの殺害容疑をかけられている)、A王子玉男(玉子という綽名の博士研究員・屋上から転落して死亡)=ハンプティ・ダンプティ(塀から転落して死亡)、B井森建(亜理と同学年で石塚研の学生)=蜥蜴のビル(頭が悪く記憶力がほとんどない)、C田中李緒(亜理の1年先輩の女子学生)=白兎(ハンプティ・ダンプティの死亡した庭に出入りしたのはアリスだけだと主張するオスの兎)、D篠崎教授(牡蠣中毒で死亡)=グリフォン(牡蠣をのどに詰まらせて死亡)、D広山衡子(ひろやまとしこ・篠崎研の准教授)=公爵夫人(自称女王のライバル)、E田畑順二(篠崎研の助教)=ドードー
、F谷丸(今回の事件を捜査している警部)=?(帽子屋と思わせておいて…?)、G西中島(今回の事件を捜査している巡査)=
?(三月兎と思わせておいて…?)、H武者砂久(李緒を刺殺した覚醒剤中毒者)=スナーク(何者かによって白兎に送りつけられたブージャム)。あらすじは以下の通り。
【王子の死】転落死したハンプティ・ダンプティの遺体を調べる帽子屋と三月兎の夢を見た亜理は、実験のための蒸着装置の予約を譲ってもらうため接触した井森に、「スナークは」と語りかけられ、全身に電撃のような悪寒が走る。それは夢の中で蜥蜴のビルと取り決めた合い言葉の問いかけだったからである。夢で見た通り「ブージャムだった」と答えてしまった亜理は、現実と自分の夢の世界がつながっていること、そしてそれが他人の夢ともつながっていることを認めざるを得なくなる(スナークとは「不思議の国のアリス」の作者、ルイス・キャロルによるナンセンス詩「スナーク狩り」に登場する架空の生物。スナークには様々な品種があり、中でも最も危険なものがブージャムである。ブージャムに出くわした者はこの世から消滅してしまう)。井森は、死んだ王子が、夢の世界でハンプティ・ダンプティであったと認めていたことも語る。夢の世界でハンプティ・ダンプティが死亡した直後に王子が死亡したことで、井森は、夢の中のアリスがハンプティ・ダンプティ殺害の容疑で有罪判決が下って死刑になると、現実世界の亜理も死んでしまうと断言する。
【篠崎の死】夢の世界のアリスの無罪を証明するため、夢の世界と現実の世界で捜査を開始する2人に対し、夢の中で白兎が現実世界での田中李緒であることを告白するが、その直後グリフォンの死亡が明らかに。そして現実世界ではグリフォンと同じ死因で篠崎教授が死亡していた。篠崎研で、教授の突然死に戸惑う准教授の広山と助教の田畑は、亜理と井森に、自分たちも夢の中で不思議の国の住人であることをあっさり認めるが、多忙を理由に2人の捜査に対しては協力的ではなかった。現実世界で2人に近づいてきた谷丸警部と西中島巡査は、自分たちが明らかに夢の世界の住人であることを臭わせて、亜理と井森が夢の世界で誰に該当するのか聞き出そうとするが、2人は危険を感じて返答を拒否。彼らは一旦は退散する。
【李緒の死】まずは李緒を調査しようと決めた亜理であったが、昼下がりのキャンパス内で亜理と話していた李緒は、亜理の目の前で包丁を持った男
・武者砂久に刺殺され、男もその場で自殺してしまう。
夢の世界での李緒、つまり白兎は、何者かによって送りつけられたブージャムによって消滅させられていた。女王がアリスを捕まえたがっていることから女王が一連の事件の真犯人ではないかと疑われたが、女王にはアリバイがあった。また、井森は助教の田畑の奇行にに注目する。広山に確認すると、田畑は篠崎から多くの仕事を押しつけられていたことが判明する。井森の田畑真犯人説に、亜理は「不思議の国でグリフォンを殺しても、現実の世界では殺人は成立しない。だけど、篠崎先生は死ぬ。一種の完全犯罪と言えるわね」と同意する。2つの世界の間の死のリンクを絶つことを誓う亜理に対して、広山は協力を約束し、両方の世界で田畑=ドードーを追求することになる。
【井森の死】その後、真犯人に至る重要な事実に気がついた井森であったが、夢の世界の蜥蜴のビルは、アリスの前でそれを上手く思い出せない。現実の世界に戻ってから聞けばよいと思っていた亜理だったが、何者かによって公爵夫人の家の裏の物置小屋に呼び出された蜥蜴のビルはバンダースナッチに食い殺され、現実世界では泥酔して路上で眠っていた井森が野良犬に食い殺されていた。
【広山の死】蜥蜴のビルが残した「公爵夫人が犯人だということはありえない」というダイイングメッセージから、亜理は、白兎の家政婦のメアリーアンこそが広山であり、真犯人であることに気がつく。目の悪い白兎はハンプティ・ダンプティ殺害犯を目撃したわけではなく、匂いでアリスだと思い込んでいた(白兎がメアリーアンとアリスを間違えるシーンは「不思議の国のアリス」の中でも描かれている)。メアリーアンとアリスが似た匂いを持っていることで、白兎がこれまでに何回か2人を勘違いしたことがあったことに思い至ったのだ。メアリーアンしか知り得ない事実を広山が知っていたことで、亜理は彼女が真犯人であると確信したのだ。10年以上前から夢の世界の存在に気がついていた広山は、自分を教授に推薦しなかった篠崎教授に恨みを抱き、ハンプティ・ダンプティを人違いで殺害、その後、グリフォンこそ篠崎教授のアーヴァタールであることを突き止め彼を殺害したのである。追い詰められた広山は、亜理の目の前で鋲打ち銃で自殺してしまう。夢の世界で、自分の無罪を証明できる人が全ていなくなってしまい途方に暮れるアリスの元に、メアリーアンが真犯人であることを知っているというフードをかぶった女性が現れる。彼女に付いていったアリスは彼女の罠にはまり、白兎の家で鎖につながれてしまう。フードの女性の正体はメアリーアンであった。白兎の研究を盗んでいた彼女は、不思議の国こそが本当の世界であり、地球こそが夢の世界だと言う。不思議の国で死んだ者は地球上でも死ぬが、その逆はないというのだ。メアリーアンは残酷な方法でアリスを殺害するが、アリスは死ぬ間際にポケットから眠り鼠を逃がす。
【結末】地球上で復活した広山の前に現れる死んだはずの亜理。何とアリスのアーヴァタールは亜理ではなく、亜理の飼っていたハムスターで、いつもアリスのポケットにいた眠り鼠のアーヴァタールこそ亜理だったのだ。広山は、
自分の犯した罪の数々の自白を亜理に聞かれたくらいでは問題ないと考えていたが、谷丸警部と西中島巡査もその自白を聞いていた。しかも、彼らは不思議の国での
実力者である女王と公爵夫人であったことから、不思議の国ではメアリーアンの死刑が執行される。地球での広山も電車にはねられ瀕死の状態となり、めでたしめでたしと思いきや、メアリーアンが無茶なことをやりすぎたせいで、地球の世界は崩壊を始める。その影響で地球の世界に出現したチェシャ猫は、
亜理に対し、「夢の世界を作り出す赤の王様が再び眠りにつけば、また、すぐ次の地球の夢を見始める」と語り、亜理は
崩壊していく世界の中で「次の地球がいい地球でありますように」と祈りながら物語の幕を閉じる。
現実の登場人物達があまりにもあっさりと自分のアーヴァタールを明らかにすることから、誰かが嘘をついており、それが真相につながっているのだろうという想像はつくのだが、広山の正体がメアリーアンであり真犯人であるとは簡単に分かりそうにない。それなりに作品中にヒントは散りばめられているのだが、気がつく読者は果たしているのだろうか。メアリーアンは作中にチラチラ登場はしており気にはなるのだが、彼女が白兎の家政婦であることすら「不思議の国のアリス」を熟知している人でないと終盤まで分からない。これは少々フェアではない気がする。しかし、そんなことは些細なこと。本当の世界が、地球の世界ではなく不思議の国の世界の方であ
ったこと、亜理=アリスではないというどんでん返し、さらには地球の世界が崩壊してしまうラストは強烈の一言。「このミステリーがすごい!」にピッタリな作品であることは間違いない。このランキングは良いか悪いかではなく、すごいかすごくないかという基準で選ばれている
のでは?と言うことはよくあるので。このとんでもない世界観と、あっと思わせる終盤の急展開を見せられると、個人的評価としては限りなく★★★を付けておきたいところなのだが、前述したように、あまりにも馬鹿げた会話文にイライラさせられることと、「不思議の国のアリス」の前知識が必要なこと、不必要にグロい描写の連続
が不快なことなどをマイナスして★★にしておく。
『ビブリア古書堂の事件手帖5 〜栞子さんと繋がりの時〜』(三上延/角川書店)★★★
前作のシリーズ第4弾が、ついに「このミス」2014年版で19位にランクイン。シリーズがランクインされる前から読み続けていた者としては感慨深いものがある。今回も発売されて間もないシリーズ第5弾をランクインに関係なく読むことに。
結論から言えば、個人的には文句の付けようのない作品。好みの問題もあるかもしれないが、シリーズもので今これだけ楽しく読めるものは少ない。さんざん盛り上げておいて、ラストで不幸のどん底にたたき落とす展開はちょっと酷だが、次回作以降でハッピーエンドが待っていることに期待しよう。
【第一話「彷書月刊」】大輔は、同業の滝野蓮杖から、古書に関連したテーマを扱う雑誌「彷書月刊」を売りに来ては買い戻すという奇行を繰り返す年配の女性がいるという情報を仕入れるが、その女性がついにビブリア古書堂へ現れる。失踪した夫を捜すために、夫の蔵書を売ったり買い戻したりしていることが分かった大輔は、常連であるせどり屋の志田が最近連れてくるようになった年配の紳士こそ彼女の夫ではないかと考えるが、栞子は、彼女の夫が志田であることを見抜き、彼女の伝言を志田に伝える。以前から栞子の様子を智恵子に伝えていた志田に対し、大輔の告白に返事をする前にどうしても母の智恵子に会いたいと告げる栞子であったが、志田は、現在、智恵子と連絡が取れなくなっていた。
【第二話「ブラック・ジャック」】滝野蓮杖の妹であり、栞子の親友である滝野リュウから、高校の後輩・真壁菜名子の父の漫画のコレクションから「ブラック・ジャック」が何冊かなくなったので相談に乗ってやってほしいという依頼が栞子の元に舞い込む。盗んだのは、菜名子の弟の慎也であったが、慎也は、母親が危篤の時に、父親がすぐに病院に駆けつけず、古書店に立ち寄って「ブラック・ジャック」を購入したことで、母が脳死状態になる前に病院に着けなかったことをずっと怨んでいたのであった。栞子は、その本が稀少な初版本であり、菜名子と慎也の両親にとって若い時に貸本屋で見つけた思い出の本であったこと、そして、父親が買ったのはその貸本屋が閉店セールで売りに出していた、まさにその本であったことを突き止め、慎也に真相を語る。父親が母親の意識を取り戻させるために買い求めた本であることを知った慎也は、栞子の父親と和解するようにという話を素直に聞き入れるのであった。
【第三話「われに五月を」】ある日突然、篠川家に押しかけてきた門野澄夫は、栞子が一昨年、盗品をビブリア古書堂へ持ち込んだことで店への出入りを禁止した人物であった。澄夫は、栞子に対し、亡くなった兄の勝己から寺山修司の「われに五月を」の初版本を譲ってもらえることになっていたのに、以前からトラブルメーカーだった彼は家族から信用してもらえず、もらえるべきものがもらえないので何とかしてほしいという依頼をする。調査を始めた栞子は、澄夫が幼い時に、勝己の大事なコレクションの1つであった寺山修司直筆の下書き用紙を落書きに使ったことが勝己の怒りを買い、それ以降2人の仲は悪いままであったことを知る。やむをえない事情と思われたが、栞子は真相を突き止める。当時、勝己のために貴重な商品を仕入れてきていたのは智恵子であり、結婚前から勝己の家に出入りしていた勝己の妻・久枝は、智恵子の話ばかりする勝己が許せなくなり、つい彼が最も大切にしていた寺山修司の直筆を消してしまったのだ。そのことにあとで気がついた勝己は、澄夫と仲直りするために初版本の譲渡を澄夫に申し出たのであった。栞子の元に持ち込まれる相談は、すべて栞子の力を試す智恵子からの課題であったが、智恵子と会う決心をした栞子の前に智恵子がついに姿を現す。智恵子が母と会いたがったのは、智恵子と父との関係を聞き出し、自分が智恵子と同じように突然大輔の前から消えるようなことにならないようにしようと思ったからであった。智恵子は、栞子も自分と同じ道を歩むであろうと断言し自分のパートナーとして栞子を連れて行こうとするが、栞子は大輔を選んだ。大輔の求愛を受け入れるという栞子の返事に驚く大輔であったが、喜びも束の間、栞子に大怪我を負わせながら保釈中だった田中敏雄からの脅迫状が店に届き、2人に不吉な影を落とす。
マニアでなくとも本好きの人には、こんなに楽しい作品はそうないだろう。恋愛小説でもあるが、古書の魅力、ミステリの魅力、そしてキャラクターの魅力が前面に出ているため、微笑ましくはあっても、恋愛ものにありがちな恥ずかしさやいやらしさは全く感じない。★★★で。
『リバーサイド・チルドレン』(梓崎優/東京創元社)
【ネタバレ注意】★★
「このミス」2014年版(2013年作品)6位作品。デビュー作『叫びと祈り』は次回作に期待を抱かせるものであったが、本作は果たしてどうか。前半は、あまりミステリー色はなく、あることがきっかけでカンボジアでストリート・チルドレンにならざるを得なかった日本人少年と、その仲間達との、過酷でありながらも自由で生き生きとした幸せな生活が描かれ、そこに次第に死の影が忍び寄ってくるという展開である。観光化が進むカンボジアの暗部ともいうべき社会問題に光を当てつつ、少年少女のまわりで起こる様々な出来事が色彩豊かに描き出されている(良い出来事にも悪い出来事にも「色」は頻繁に印象的に用いられている)。後半の謎解きはいかにもミステリーであるが、これには賛否が分かれるところであろう。終盤で突然現れる探偵役は名前も名乗らず、主人公を真相に導いた途端にフェードアウト。こんなパターンはそうない。『叫びと祈り』の主人公・斉木のようだが、その作品を知らない読者には、この展開は異様としか感じられないではないか。事件の真相も読者によっては唖然とするのではないか。教養のない子どもが、あることを証明するために自分なりに必死に考えた末に行った犯罪なのだが、それを切なく思える読者がいる一方で、馬鹿馬鹿しく感じられる読者もいて当然だと思う。犯人をあえて生死不明とする意図もよく分からない。過酷な状況で人間として必死に生きようとする子どもたちに僅かでも希望を残そうというものと思われるが…。個人的に評価は微妙。
交通事故で母と弟を亡くした水澤岬は、小学校を卒業したばかりの3か月前に父とカンボジアに旅行に来ていたが、父の旅行の目的が岬の臓器を岬ごと業者に売り飛ばすことであることを知りホテルから逃げ出した。ヴェニィをリーダーとするストリート・チルドレンのグループの仲間入りをした岬は、明るく聡明で面倒見の良いヴェニィ、ヴェニィの兄で足が不自由なソム、金持ちの親に見捨てられた泣き虫なハヌル、大柄で荒っぽい副リーダーのティアネン、岬がフラワーと呼ぶ美少年のフラウェム、そして長髪で神経質なコンという仲間と共に、ゴミ山から拾った金目の物を工場に売って生計を立てていた。街と山との間にある遺跡に住み着く「墓守」と呼ばれるグループに絡まれたり、ストリート・チルドレンを助ける活動をしているNGOで働くストリートエデュケーターのヨシコにしつこくホームへ誘われたりしている中で、ある日、「黒」と呼ばれている私服警官にヴェニィが射殺され、ティアネンも耳を撃たれる。ヴェニィを失い、気分を損ねてゴミ山へ「狩り」に行くことも拒絶するティアネンを残し山へ出かけた岬達であったが、みんなの収入を独り占めしたコンは岬に殴られて逃げ出す。自分を殴った岬に復讐するため、「墓守」に自分たちの隠れ家を教えてしまうコン。警官に住処を襲撃され仲間の1人ルウを射殺された「墓守」は、岬のグループが警察に「墓守」の住処を教えたことで襲われたに違いないと考え、岬のグループの隠れ家を襲撃する。逃げ出す途中で木の枝に激突して気を失うが、意識を取り戻した岬は、新聞紙に埋もれた「墓守」のリーダーのザナコッタの撲殺された遺体を発見し再び意識を失う。岬は、雨乞いと呼ばれ周囲から忌み嫌われている老人に救われるが、そこには崩壊した「墓守」の元にいた少女ナクリーもいた。最近街には警官が増え、ゴミ山に運び込まれるゴミの量が減るという、岬達にとっては困った変化が起こっていたことについて、観光客が増加したカンボジアで、さらなる観光収入を得るための国の政策によるものであったことを雨乞いに教えられる岬。なぜ、子どもたちが次々に殺されるのか調べるためナクリーと共に遺跡を訪ねた岬は、顔一面を血で赤く塗られたティアネンの遺体を発見する。そこをヨシコに目撃された岬は、ヨシコが父の手先であり、そのことを知られたティアネンは口封じのために殺されたのではないかと考える。ナクリーにその可能性を否定された岬は、次に自分たちの隠れ家へ向かうが、そこでコンと「墓守」のメンバーの1人が衰弱しているのを発見し、さらに川の向かい側の小屋の中でソムの遺体を発見する。衰弱している2人を助けようと岬達は彼らを医者の元へ運ぶが、そこでは売春が行われており、「黒」もその仲間で、岬達はその地下に監禁されてしまう。同じ部屋に監禁されていた若い日本人の男に全てを告白した岬であったが、その男は監禁犯のチェックを逃れた携帯電話で警察に助けを呼ぶと、事件について検討を始める。ザナコッタ、ティアネン、ソムの3人を殺したのは一体誰か。岬はソムこそが犯人であるという推理を披露する。愛する弟のグループを襲った「墓守」のリーダーに復讐し、副リーダーとしてグループを守ろうとしなかったティアネンを始末して、自殺をはかったというものだ。しかし、旅人と自称する若い男はその推理を否定し、その後の説明を聞き岬も真相に至る。警察に救出された岬は、真犯人の元へ向かうが、彼はちょうど「黒」に撃たれたところだった。真犯人はハヌルであった。「黒」の「人間を傷つけられるのは人間だけ」という論理に従って、自分が野良犬ではなく人間であることを証明するため、人間だけが活かせる情報が載った新聞にザナコッタを埋めることによって「人間は考える葦」という見立てを行い、人間であるザナコッタを殺した自分を人間であると示そうとしたのであった。そしてティアネンの顔を血で赤く塗ったのは、ヨシコが「人間は恥ずかしがって赤面するもの」と言ったことを憶えていたからであった。しかし、その現場で「人間のやることではない」という叫びを聞いたハヌルは、どれだけ見立ててもやっぱり偽物は偽物で、本物の人間を殺さないと自分が人間であることの証明はできないと考え、「自分は偉大な人間だ」と言っていたヴェニィの実の兄・ソムが人間であることに間違いはないと考えソムを殺したのだった。しかし、誰かに遺体を発見されないとそれが他人に証明できないことに気づいたハヌルは、誰も気がつかない場所でソムを殺したことを反省し、次に、ヴェニィを殺した本物の人間「黒」を殺そうとして返り討ちにあったのであった。岬は、そんなことをしなくてもハヌルは人間であることを懸命に言い聞かせるが、雨で増水した川が橋ごとハヌルを押し流した。結局ハヌルの遺体は発見されず、岬は「狩り」と称するゴミあさりを続けていた。そして、仲間と共に死者に祈りを捧げるのであった。
『死神の精度』(伊坂幸太郎/文藝春秋)
【ネタバレ注意】★★★
「このミス」2006年版(2005年作品)12位作品。本書の続編である2014年版(2013年作品)5位の『死神の浮力』を図書館で借りたものの、やはり前作を読んでおいた方がいいかと思い直したところ、たまたま奥さんが所有しているのを聞きつけ貸してもらって読み出した。あまり期待していなかったのだが、予想以上の面白さに続編を読むのが大変楽しみになった。
主人公は、死神の調査部員・千葉。死神の調査部員達は、情報部からの指示を受けて、その仕事に最もふさわしい姿で現実世界に出現する。調査部員の仕事とは、情報部に指定された人物を1週間調査し、その対象者に「死」を与えるべきか否かの最終判断を下すというもの。ここでの「死」とは、事件や事故によるものであり、病死や自殺、極刑、寿命によるものは含まれない。ほとんどの情報部員は「可」の報告を情報部に行い、「見送り」の報告をしない限り、8日目に「死」は実行に移される。情報部がどのような基準で対象者を選んでいるのかは謎で調査部員も知らない。8日目までは、いかなる理由でも対象者が死ぬことはない。死神達は音楽を好み、仕事の合間にCDショップに入り浸る。彼らに食事や睡眠は必要ではなく、彼らが素手で人間に触ると触られた人間は失神し寿命を1年削られる。したがって必要な場合、彼らは手袋を装着する。人間社会に何千年も関わっている割には人間社会の常識にうとく、的外れな受け答えをすることが多い。本書には、千葉が関わった以下の6つの物語が収められている。
【死神の精度】今回の千葉の調査対象者は、大手電機メーカーの苦情処理の電話対応係・藤木一恵。彼女は、毎日の理不尽な仕事に疲れ、「死にたい」が口癖になっていた。彼女の今の一番の悩みは、商品にクレームをつけてきた男性が、何度も彼女を名指しで電話をしてきて無理難題をふっかけるということである。そのストーカーとも言うべきクレーマーにカラオケ店に連れて行かれそうになった一恵は、店に入る直前で逃げ出すが、それを目撃した千葉は、その男を知っていた。彼は、つい最近立ち読みした音楽雑誌に載っていた天才プロデューサーだったのだ。彼は、彼女の声を「本物」と判断し、歌手としてデビューさせるべく追いかけていたのである。千葉は珍しく「見送り」の報告を情報部に送った。
【死神と藤田】今回の千葉の調査対象は、古い任侠の男・藤田。藤田と対立する男・栗木の情報を持っていることをちらつかせ、藤田の舎弟・阿久津にわざと捕まった千葉は、藤田のマンションに連れて行かれる。組織の上層部が藤田を切り捨てる判断をしており、栗木の待ち伏せによって藤田が処分されることを知っていた阿久津は、藤田を救うため千葉を連れて栗木のアジトに乗り込むが、2人はあっけなく捕まってしまう。2人を人質に藤田をおびきよせようとする栗田に、千葉はあっさりと藤田の電話番号を教え、激怒する阿久津。しかし、死神の千葉は、藤田が明日死んでも今日は死なないこと、別の死神が先に付いていた栗木が今日死ぬことを知っていたのだ。「藤田が負けるのか?」「おまえは、藤田を信じていないのか?」と千葉に問いかけられた阿久津は、1人で乗り込んでくる藤田を信じて待つことにしたのだった。
【吹雪に死神】突然の大雪に信州の山奥の洋館に閉じ込められた人々が次々に死んでいくという、いかにもミステリらしい物語。今回の千葉の調査対象は、東京の開業医・田村幹夫の妻・聡江。田村夫婦と、初老の男・権藤とその息子の英一、女優の卵・真由子の5人は、豪華な洋館での2泊3日の宿泊旅行に招待するという当選ハガキが送られてきて集まった人々であった。洋館には、ほかに童顔の料理人が1人と、吹雪から避難してきたという設定の千葉がいるだけ。2日目の朝、服毒死した幹夫の遺体が発見され、3日目の朝、権藤が雪の上で刺殺されていた。そしてそこに現れた真由子の恋人・秋田は、千葉の同僚だった。どうやら真由子も死ぬ運命にあるらしい。秋田は、真由子のことを「結婚詐欺師に近い酷い女」であることを千葉に伝える。日が変わった深夜、真由子の死を見届けた秋田は、千葉に挨拶してから去っていった。真由子の殺害犯の名を秋田から聞いていた千葉は、「どうせおまえたちには、全貌の把握はできない」と情報部に言われたことが気にくわず、事件の真相を明らかにしようとする。田村夫婦の一人息子・和也は真由子に騙されて自殺していた。田村夫婦と、料理人の聡江の弟、真由子を調べていた刑事の権藤、和也の親友で旅行会社に勤めていた英一らは、真由子への復讐のため、示し合わせて今回の計画を立てたのであった。最初に幹夫が死んだのは、毒を盛った真由子の料理を千葉が食べてしまい、毒の効き目に疑問を持った幹夫が毒を口にして死亡したというものだ。権藤は真由子を刺殺しようとして返り討ちに遭い、英一がついに真由子を仕留めたというのが真相であった。千葉は今回のことは忘れることにすると言い残し、洋館を出て行った。
【恋愛で死神】今回の千葉の調査対象は、ハンサムなのに女性に外見で判断されたくないという理由でわざとダサいメガネをかけているブティック店員の青年・荻原。彼は、千葉の調査8日目に、彼が片想いしていた女性・古川朝美のマンションでストーカーに刺されて死のうとしていた。荻原は自分の店に服を買いに来た朝美に想いを寄せ、彼女が買おうとしていた商品がバーゲン除外品であったことに彼女がショックを受けているのを見て、彼女に内緒で自腹を切ってバーゲン最終日に安く売ってあげたことがあった。偶然、近所に彼女が住んでいることを知った荻原は、バス停で彼女に声をかけるようになるが、彼女は荻原を頻繁に電話をしてくるストーカーと勘違いする。誤解を解いた荻原は、趣味が合う彼女と親密になるが、凶刃に倒れてしまうことになったのだ。荻原は、それでも「良かった」と千葉に告げる。荻原は癌で余命1年しかなく、どうせ死ぬなら好きな子のために死ぬのも良かったと言うのである。服を安く売ってくれた店員のことを憶えていなかった朝美に、今日は荻原に会っていないという嘘をついて千葉は去っていった。
【旅路を死神】今回の千葉の調査対象は、幼い頃、誘拐された経験を持ち、それが大きなトラウマとなっている森岡という20歳の男。彼は、母を刺した上、勢いで繁華街で見知らぬ男を刺殺し、千葉が運転していた車に乗り込み、千葉を脅迫して十和田湖を目指す。森岡を誘拐した4人組は、3人が事故死、監禁場所で森岡を監視していた深津という男が、事故現場から血まみれで帰ってきて、森岡を解放していた。森岡は、母が深津と電話しているのを聞きつけ、誘拐事件に母が絡んでいたと考え、母を刺し、深津も刺すべく彼が住んでいる十和田湖へ向かおうとしていたのだった。しかし、千葉の推理は違った。深津は犯人グループの1人ではなく、森岡同様、被害者であり、足が悪かったことから縛られずに森岡の監視役を任されていたのではないか、森岡の前で犯人を装っていたのは、自分も弱い被害者だと森岡に知られたら、深津を頼りになると考えていた森岡が幻滅すると考えたからではないかというものだった。戸惑いながらも、凶器を持たずに深津に向かって駆け出す森岡に、泣きそうな顔をして歩み寄っていく深津の姿を千葉は見た。
【死神対老女】今回の千葉の調査対象は、高台から海を見下ろせる美容室を1人で営む70過ぎの老女・新田。彼女は、千葉の髪を切った後、「人間じゃないでしょ」と語りかけ、千葉を感心させた。彼女は、父と、最初の恋人、夫、長男を不慮の死で亡くしており、千葉から同じ「死」の空気を感じたというのである。死を予感した彼女が、最後に死神に持ちかけた依頼は非常に奇妙なものだった。それは、明後日限定で、10代後半の男女4人くらいを客として連れてきてほしいというものだ。老女の依頼を引き受けた千葉が、お金を配ってまで客を集めた甲斐あって、その日は大繁盛であった。翌朝、千葉に種明かしをする老女。絶縁していた次男の子供、つまり老女の孫が老女に会いたがっているので、日を指定して孫を客として行かせると行ってきたのだが、突然孫に会うのが恥ずかしいと思った老女は、わざと同年代の男女を集めて、どの子が自分の孫かあえて分からないようにしたというのだ。「それで、良かったのか?」と尋ねる千葉に「誰だか分からないけど。でも、それくらいがちょうど良かったと思う。それ以上は罰が当たるよ」「どの子もいい子に見えたよ」「一生懸命頑張って、どの子も凄く似合う髪にしてあげたから」と答える老女。千葉は、老女と外の天気について賭けをするが、老女の言うとおり、窓の外に見たことのない晴天が広がっていることに驚かされる。老女との会話と、彼女が常連の女性の竹子に与えた古いジャケットから、老女の正体が、過去に自分が関わった古川朝美であることに気づく千葉であった。
最終話で、第1話に登場した藤木一恵が後に歌手として成功したことが明らかになったり、死の前にささやかな幸せを手にした老女が第4話に登場した古川朝美だったりという仕掛けはもちろん、すべての物語に感動がある。なぜ、千葉が「見送り」の結論を出したのが第1話のみなのか、その基準が今一つ分からないが、ベスト10入りしていないのが非常に不思議な傑作である。
『死神の浮力』(伊坂幸太郎/文藝春秋)
【ネタバレ注意】★★★
「このミス」2014年版(2013年作品)5位作品。今回の死神・千葉の調査対象は、10歳の娘を殺された作家の山野辺遼とその妻・美樹。夫婦の娘を殺した犯人は、親の残した遺産で悠々自適の暮らしをしているサイコパス・本城崇。本城には、逮捕後、彼に有利な証拠が次々に出てきて無罪判決が出ていた。それは、山野辺夫婦を苦しめるための本城の計画的演出であったのだが、一方で山野辺夫婦も彼が無罪になるように仕向けていた。彼らは本城に直接復讐するために、彼が司法の手から解放されることを願ったのである。
【調査1日目】千葉は、遼の幼稚園時代の同級生を語り、本城が釈放された後の移動先の情報を持って夫婦に近づく。遼の元担当編集者・箕輪がもたらした情報と千葉の持っていた情報は一致しており、夫婦と千葉は、その本城への独占取材のために雑誌社が用意したというホテルの一室に翌日向かうことになった。
【調査2日目】本城のいるホテルの1室に部屋に乗り込んだ3人であったが、本城は彼らが来ることを知っていた。本城の取材のために部屋を借りた記者は千葉の手に触れて気絶。夫婦は、防犯スプレーとスタンガンで本城を拉致するつもりだったが、千葉の不用意な一言のせいで、気がそれた遼に隙ができ、本城に逃げられてしまう。
【調査3日目】深夜営業中のミュージックストアで、千葉は自分より2日前から対象者の調査をしている同僚の死神・香川に会った翌日、遼の携帯に轟という男から「会って話がしたい」というメールが届く。轟は、事件前から本城に自宅窓からの景色をビデオ撮影しておくよう頼まれていた男で、この男のビデオは、本城の無罪判決に大きく貢献していた。3人が轟のマンションに到着すると、轟は駐車場に停めてあった自分の車の運転席に猿轡をかまされて縛られていた。運転席のドアを開けると爆発する仕掛けに気がつくが、あえて指摘しない千葉。会話の流れで遼もやっと爆弾の存在に気がつき、轟は後ろのドアから助け出される。仕掛けたのは本城であることは間違いなさそうだったが、一旦3人は夫婦のマンションに引き上げる。マンションで、本城のいたホテルの部屋から持ち帰った取材用のビデオカメラを再生したところ、香川の調査対象が本城であったことを知る。再び香川に会った千葉は、高級住宅地に住む佐古という老人の家に本城が隠れていることを知るが、千葉がマンションに戻ると、箕輪からの情報で、本城が浜離宮恩賜庭園で人と会う予定になっているというので、夫婦はそこへ向かうらしい。これまでの箕輪の情報は明らかに怪しいのに全く疑念を持たない夫婦。そしてあえて警告しない千葉。案の定、レインコートを着た3人組の男に捕まってしまう3人であった。
【調査4日目】
建築現場らしき1室で2人の男に拷問を受ける千葉。なぜかもう1人の男は山野辺に銃を渡し、彼らを撃って千葉を助けるように促し姿を消す。しかし、拷問の痛みも訴えることなく難なく縛りを解いた千葉に呆然とする2人の男達を置いて逃げ出す山野辺夫婦と千葉。遼は、そこで初めて姿を消した男が本城であったことを千葉に知らされショックを受ける。気がついていれば本城を撃てたのに、なぜ気がつかなかったのか、本城はなぜ自分に銃を渡したのか、うろたえ困惑する遼であったが、一度マンションに戻ってから、千葉が教えた佐古の家に向かう。本城によって取り付けられたらしい多数の防犯カメラを確認した一行は、食事の宅配サービスを利用して佐古に近づくことを思いつく。
【調査5日目】食事の宅配業者の店舗を訪れ、外で病人の振りをした山野辺夫婦が従業員を引きつけている隙に、千葉が店舗内から制服とプレートを盗もうとするも、銃を落として通報されそうになる。しかし、小木沼という若い従業員の機転によって危機を切り抜けた。遼の作品の読者であった小木沼の協力で佐古に接触することに成功するが、佐古は2時間後に来てくれと言う。実は、特に山野辺夫婦に味方する気のない千葉は、この訪問を、本城担当の同僚の香川に話してしまっていた。仕方なく出直すことにした一行であったが、千葉は、冷静にこれまでの経緯を分析して山野辺夫婦に披露する。本城の目的は、山野辺夫婦を殺すことではなく、社会的に追い込んで苦しめあざ笑うことであるという結論である。これまでの本城の行動からは、山野辺夫婦に轟爆殺の罪を着せよう、誘拐犯射殺の罪を着せようという意図が見えると。そして今度は、本城を匿った佐古毒殺の罪を着せようとしているのではないかと。案の定、佐古は毒を盛られていたが、一行が早く発見したこともあり、なんとか死なせずに済んだ。しかし、山野辺夫婦は殺人未遂で指名手配される。そして、千葉は監査部から衝撃の事実を知らされる。香川が本城の死を「見送り」にしたというのである。香川本人からも、本城の命は20年保証されたと断言される。つまり、山野辺夫婦の復讐は成功しないということだ。
【調査6日目】本城が、今度は箕輪を爆殺しようとしていることが分かり、本城に、ある場所へ呼び出された一行であったが、千葉の能力により箕輪の監禁場所が判明して救出に成功する。待ち合わせ場所で、出し抜かれたことを遼に告げられた本城は動揺し、遼を車から振り落とし、当初の計画通りに、遼の娘の書いた絵本のストーリーに沿ってダムにシアン化カリウムを撒こうとする。千葉は、自転車の後ろに遼を乗せて千葉を追う。ダム近くで追いついた遼は本城の車に乗り移り、シアン化カリウムの入ったバッグを持って飛び降りる。遼の娘のぬいぐるみがブレーキペダルに引っかかり、減速できなくなった本城の車はガードレールに激突してから、ダムに水没した。
【調査7日目】結局、本城の罪は暴かれ、山野辺夫婦の潔白は証明された。そして、夫婦は知らないことだが、20年の命を保証された本城は、捜査の及ばないダムの湖底で20年間生きたまま苦しむこととなった。
【エピローグ】50代になった美樹は幼稚園で働いていた。そして、千葉に「可」の判定を出されていた遼は、千葉の調査8日目に交通事故で死亡していた。ある日、幼稚園の運転手が千葉に話しかけられる。山野辺の話題になり、「初期の作品が面白いみたいですね」と語った運転手に対し、千葉は「晩年も悪くなかった」と答え、美樹をじっと見つめていた。
きまじめな千葉が、普通の人間と会話がかみ合わない様子をユーモラスに描いているところは面白いのだが、前作同様、千葉の判断基準というのが、やはりよく分からない。仕事とは言え、危険をかえりみず(彼に危険などないも同然なのだが)山野辺夫婦に常に付き添ったり、膨大な労力を必要とする(彼に疲労という概念はないのだろうが、調査対象への協力に対し面倒臭そうな態度はよくとっている)自転車での本城追跡を自分から申し出て実行したりする一方で、箕輪からの情報が怪しいことや、轟の車に爆弾が仕掛けられていることをあえて山野辺夫婦に教えなかったり、山野辺夫婦に不利になることが明らかな、佐古宅への襲撃情報を事前に本城側へ流してしまったりする。そして、これだけ彼らと行動を共にしながら、監査部への反抗の気持ちもあったにしろ、あっさりと遼の死に対し「可」の判定を出し迷う様子もない点が、何より不可解だ。千葉が100%「可」の判定を下す人物ならば理解もできようが、彼は前作で一度、調査対象者に「見送り」の判定を出したこともある。あれは一体何だったのか。その調査対象者の運命が大きく変わりそうな場合のみ「見送り」判定を出し、それ以外の情は一切挟まないという解釈で理解できないことはないが、ここだけは、どうしてもすっきりしない。まあ、そこを読者に考えさせるのも、この作品の味わいの1つなのだろう。
さて、千葉のことは置いておいて、本作において、千葉の言動以外で私が特に印象に残ったことがある。それは、遼の父のことである。「死」が恐ろしくて、どうせ死ぬなら好きなことをしようと家族をかえりみず好き放題やって遼に嫌われ、結局病死するのだが、死に際して「死ぬことは怖くない」ということを悟り、遼にそれを伝えようとするというエピソードである。ここ1、2年で、まさにかつての遼の父と同じように「死の恐怖」について考えるようになった私にとっては、非常に考えさせられる話であった。死神という独創的な視点から生と死について深く考えさせられる本作には、前作同様★★★を付けておきたい。
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