『Anotherアナザー2001』(綾辻行人/角川書店)【ネタバレ注意】
★★★
「このミス」2021年版(2020年作品)3位作品。
シリーズ3作目であるが、過去の2作をほぼ覚えておらず、本作のパート1チャプター2を読了した時点(88ページまで/全体の約11%)で、その関係性を把握していないことに不安を覚えたので、自分がこれから読書を進めていくための参考メモとして、過去の自分の読書記録をまとめ直して以下に転載しておく。
登場人物欄は、パート1を読了した段階(235ページまで/全体の29.5%)で加筆した。自分の読書記録を読み直して、本作に登場する人物が前作に多数登場していたことに驚かされた。それくらい前作の登場人物をすっかり忘れていた。
シリーズ第1作は、2010年3月に読了した 『Another』。「このミス」2010年版(2009年作品)の3位作品であった。
両親のいない15歳の少年・榊原恒一は、中学3年の4月に東京を離れて夜見山市にやって来るが、転校先の夜見山北中学に登校する前に自然気胸を発症し入院することになる。彼はある日、病院で見崎鳴という不思議な少女に出会う。5月に入って退院し、叔母の怜子に夜見山北中学に伝わる七不思議と、そこでの心構えの一部を聞かされる。その翌日に初めて夜見山北中学に登校した恒一は、教室の窓際の席に鳴の姿を見つける。病院帰りに見つけた人形ギャラリーに興味を持った恒一は、そこが鳴の自宅であることを知る。
恒一は、鳴から夜見山北中学で26年前に起こった出来事について聞かされる。3年3組にいたミサキという名の人気者が事故で亡くなった後も、クラスのみんなが、その生徒が教室にいるフリを続けたところ、卒業式の記念写真に写るはずのないその生徒が写り、翌年から3年3組では、教師や生徒、その家族に理不尽な死を迎える者が連続したというものであった。そのような「災厄」が「ある年」なのか「ない年」なのかは「クラスの人数が誰も気が付かないうちに1人増える」ことで分かるという。「ある年」には、4月の新学期に向けて用意された机がなぜか1つ不足する。誰かが1人余計なのだが、それが誰にも分からない。増えた本人すら気が付いていない。誰の作為でもなく「現象」としてそういうことが起きるのだ。関係者全ての記憶がいつの間にか改ざんされ、名簿などの文書記録まで自然に書き換わってしまうというとんでもない「現象」が、この中学では26年前の事件以降続いているのである。
その「災厄」に対しては、防御策として生徒・教師全員が、クラスの誰かをとりあえず「いないもの」として振る舞うことが有効であることが明らかになっており、今年は「ない年」だと思われていたのに死者が出たため、5月1日から「鳴をいないものとする」ことがクラスで決められた。しかし、それでも死者が増え続けたことで、クラスは急遽「恒一もいないものとする」という決めごとを実行に移す。
その増えた人間の正体は、過去にこの「災厄」によって死んだ人間がランダムに現れたものであり、卒業式後いつの間にかいなくなることで、その人物が「死者」であったことが判明する。それもきちんと記録に残しておかないと関係者の記憶はどんどん薄れていき、誰が「死者」だったのか完全に分からなくなってしまうという。
26年前の3年3組の担任だった司書の千曳を訪ねた恒一に、千曳は「災厄」の歴史を語ってくれた。そして、怜子が3年3組の生徒だった15年前も「ある年」だったことが判明する。15年前に死んだ恒一の母は、怜子の関係者として「災厄」に巻き込まれた被害者の1人だったのである。そして怜子は、その年、「災厄」が途中で止まったことを思い出す。
15年前にどうやって「災厄」が止まったかを何とかして知りたい恒一は、そのきっかけとなったと思われる、その年の夏休みに行われた合宿中に起こったことを怜子から聞き出す。「災厄」を止めようと、15年前と同じ日程で合宿を計画する担任代行の三神。そんな時、怜子の同級生の松永という男が、「災厄」の止め方を記録した何かを教室に隠していたことが分かる。7人目の犠牲者が出た日の前日、恒一は、旧3年3組の教室から松永の告白を録音したテープをついに発見する。彼の告白によれば、彼が誤って殺してしまった生徒の死体が消失し、みんなの記憶からその生徒の記憶までもが消えた後「災厄」が止まったというのだ。つまり、彼が殺した生徒こそ「災厄」の元となる4月に紛れ込んだ「死者」であり、「死者」を殺すことによってその年の「災厄」は止まるというルールが明らかになったのである。
鳴は、自分が「死者」ではないかと心配している恒一が「死者」ではないことは分かっていた。それは、彼女の左の眼窩にある義眼が持つ、死に近い者を特別な色で認識するという特殊能力によるものであった。つまり鳴には、その能力によってすでにクラスに紛れ込んでいた「死者」が誰か分かっていたのだ。分かったところでどうなるものでもないためこれまで黙っていた鳴であったが、「死者」を殺せばその年の「災厄」は止まることが分かった以上、そういうわけにもいかなくなった。
「死者」の正体は、担任代理であり、恒一の叔母でもある三神怜子であった。4月に「ある年」ではないと判断された、つまり教室の机は不足していなかったのに「現象」が始まっていたのは、教員の方に「死者」が紛れ込んでいたからであり、職員室の机が不足していたのであった。怜子を殺すべく、彼女にツルハシを振り下ろした恒一は、その後気を失った。
翌日、怜子は最初からいないことになっていた。彼女のことを覚えていたのは、怜子の死に直接関係した恒一と鳴だけであった…。
「怜子=三神先生」というトリックに気付くことができなかったのは悔しかったが、そのおかげで最後の「どんでん返し」を楽しむことができたとも言える。個人的には高く評価したい作品であったが、引っかかった点もいくつかあった。ちなみに当時感じた「3組を欠番にするという方法を取らなかったのはなぜか?」という疑問については、今回の最新作で「4組が災厄に襲われた」というフォローが入っている。
まずは、やはり本作品の中核をなす「現象」の設定にあまりにも無理がありすぎる点。「現象」が関係者全員の記憶や文書の改ざんにまで及ぶというのはさすがにきついのではないか。これを拒否してしまうとこのシリーズは成立しないわけだが…。
それ以外に当時一番気になったのは、結局根本的に問題が何も解決していないところであった。「死者」を殺せばその年の「災厄」は防げるというルールが明らかになっただけで、来年度以降に「現象」がなくなることをうかがわせるようなことは何も描かれていない。「現象」のメカニズムがまったく解明されなかったことも含めて実に後味が悪い。
第1作読了後には、「死者」を見つける特殊能力を持った鳴が、高校進学後「仕事人」となって、毎年母校に現れる「死者」を探しだし葬っていくという続編のストーリーが浮かんでしまったのだが、今回の最新作はそういう話ではないのだろうか。この能力があれば、とりあえず「災厄」の早期収束が図れてしまうはずだが、この最新作は、なぜこんな長編(797ページ)なのだろう?
シリーズ第2作は2013年10月に読了した『AnotherエピソードS』。2013年7月に刊行されたが、「このミス」2014年版(2013年作品)ではランク外だった。
『Another』のスピンオフ作品である本作では、恒一と鳴が夜見山北中学の3年3組で「災厄」に見舞われた年の夏、鳴が1週間ほど夜見山を離れたときに彼女が体験した話を恒一に語るという形になっている。その話の内容とは、幽霊となった知り合いの青年・賢木晃也と鳴が再会し、彼と一緒に彼の死体を捜したというもの。
物語の前半は、晃也の視点で語られていく。彼は中学時代、例の災厄で事故に遭い、多くのクラスメイトを失うとともに足が不自由になっていた。そんな彼の生前の最後の記憶は、自宅の屋敷のホールで2階から転落し、姉の月穂と甥の想の目前で息を引き取る場面であった。その後、幽霊として復活した彼は、死の前後の記憶が欠落しており、自分の死の真相を明らかにするため、まずは自分の死体探しから始める。
そんな時、彼を訪ねてきた鳴と再会する。鳴の左目は「死」を見ることができる義眼であり、その力で自分を見つけてくれたと認識する晃也。幽霊として現れることができる時間と場所は不特定であったが、なんとか鳴の希望の時間に合わせて出現できるようになる晃也は、自分が自殺しようとしていた可能性と共に、姉の月穂に2階から突き落とされたのではという疑いも持っていた。
そして彼はついに死体の場所を突き止めた。何者かによって巧みに隠蔽された第3の地下室。しかし、その死体のある部屋に出現し、そこから出られなくなった晃也は、あまりの恐怖に半狂乱で助けを求める。その彼を助け出したのは鳴であった。そして鳴は彼に告げる。「あなたは死んでなんかいない」と。
晃也の幽霊の正体は、甥の小学校6年生の想であった。憧れの晃也の転落死を目撃したショックで、晃也の人格がその中に生まれてしまったのであった。
実に綾辻作品らしい叙述トリックである。晃也の死の前後の記憶が曖昧なのも、過去の記憶の多くが欠落しているのも当然のことであった。晃也本人ではないのだから。
ただし、やはり突っ込みどころは多く、月穂と月穂の再婚相手である修司が身内の自殺は名家の不祥事になると考え、晃也の死体を地下室に隠し、彼は旅行に行っていると周りに告げていた件について、警察が介入しつつもニュースにもならず、修司も月穂も逮捕されることがなかったというのは、あまりに不自然。
また、想に真実を告げないまま彼に付き合っていた鳴が、彼に真実を告げるシーンは確かにインパクトがあるが、彼が晃也の幽霊としてあちこちに出現している時、彼が想を見ていたことがあったし、本来は想である晃也に対し、鳴以外は誰も関心を払わなかったなどという数々の叙述を説明するのは、あまりにも苦しい。
そして極めつけは、想から鳴に手紙が届くというラストシーン。想が、修司・月穂夫婦から離れ、夜見山市の「赤沢」家に住むことになったことが示されて終わるのだが、多くの読者は「?」という感じではないだろうか。
夜見山市という住所については、将来彼が夜見山北中学に進学するかもという、続編が作られたときの前振りなのだろうが(予想通り!)、問題は「赤沢」だ。正直「誰?」という感想しか浮かばない。
前作での重要人物の一人なのだろうと調べてみると、恒一と鳴のクラスメイトで、あの年の「厄災」で悲惨な死を遂げた一人であった。
小説では目立たず記憶にもないのだが、アニメ版で人気キャラとなり綾辻氏のお気に入りでもあったようだ。アニメ版を知っている人は、このラストに感じ入るのであろうが、小説版しか知らない読者は置いてけぼりではなかろうか。
そして、第3作となる『Another2001』である。パート1の登場人物は以下の通り。
※赤字はパート2の追加情報
【主人公】
・比良塚想…2年7か月前に母の再婚相手の比良塚家から追い出されて夜見山に帰ってきた夜見山北中学の3年3組の生徒。
父の冬彦の実家である赤沢本家に引き取られたが、今年の4月から伯父の夏彦が経営する賃貸マンション「フロイデン飛井」5階のE-9の部屋で一人暮らしを始める。同じ5階に住む赤沢泉美に不吉なものを感じている。
3年3組の生徒になる者が参加する「申し送りの会」で「いないもの」に志願した。3人しかいない生物部の一人。
【主人公の血縁者】
・比良塚月穂…想の母。最初の夫の赤沢冬彦と死別後、10年前に修司と再婚した。
・比良塚修司…想の母の再婚相手。
・比良塚美礼…修司と月穂の間に生まれた想の妹。
・賢木晃也…月穂の弟で想の叔父。想が兄のように慕っていた。3年前の26歳の誕生日に死亡。
・赤沢浩宗…想の父方の祖父。飛井町界隈の大地主。高齢のため隠居している。痴呆気味のせいか「現象」の影響を受けにくいようで、泉美が生きていることに違和感を覚えている様子がある。7月5日の大雨で庭の木が浩宗の部屋に倒れ死亡し、「災厄」の8人目の犠牲者となった。
・赤沢春彦…浩宗の長男。想を比良塚家から引き取った赤沢本家の跡取り。
・赤沢さゆり…春彦の妻。
・赤沢夏彦…浩宗の次男。賃貸マンション「フロイデン飛井」の経営者。
・赤沢繭子…夏彦の妻。夏彦と共に「フロイデン飛井」に最上階に住んでいる。
・赤沢泉美…夏彦と繭子の娘で想の従姉。「フロイデン飛井」5階のE-1の部屋で去年の夏から一人暮らしをしている。
夜見山北中学の演劇部員で幼い頃からピアノを習っていることもあって部屋にはピアノがある。3年3組の「対策係」の一人。第1作で「厄災」に巻き込まれて死亡しているはずだが…。
・赤沢冬彦…浩宗の三男。想の父。想が生まれて間もなく精神を病んで自殺した。
【ヒロインとその関係者】
・見崎鳴…想の友人。3年前に夜見山北中学の「現象」を体験した夜見山第一高校の3年生。自宅には、人形作家である母の由貴代の「工房m」と、彼女の作品を展示しているギャラリーがあり、鳴は3階に住んでいる。
かつて左の眼窩に「死」を感じ取る特殊な力を持つ蒼い義眼を入れていたが、最近茶色がかった黒い瞳の義眼に入れ替えた。由貴代は養母であり、由貴代の双子の姉妹である美都代が実母である。
想が気にしている3年前の「災厄」が止まった理由をなかなか話そうとしなかったが、榊原の殺人という罪を公表するのをためらっているのかと思いきや、「現象」の力によって3年前の記憶を奪われていることが判明。ただし、その出来事の中心に榊原がいたことは印象に残っている。海外にいる榊原との電話によってついに記憶を取り戻す。
・見崎由貴代…鳴の母。霧果は人形作家としての彼女の雅号。
・天根のあばあちゃん…鳴の母方の大伯母。「工房m」の来客対応をしている。
・榊原恒一…鳴の中学時代の同級生で、かつて「現象」についての考え方を鳴と共に想に伝えた。
・見崎鴻太郎…貿易関係の仕事をしており、年中海外を飛び回っている。
・藤岡美咲…鳴の双子の妹。3年前の「災厄」で死亡。
・藤岡美都代…由貴代の双子の姉妹。鳴と美咲の実母。
【夜見山北中学の教員とその関係者】
・神林…夜見山北中学3年3組の担任を務める40歳前後の女性教師。担当教科は理科。
・神林丈吉…神林先生の兄。末期癌で、結香がゴールデンウィーク明けの月曜の授業中に「いないもの」の放棄を宣言した直後に入院先のホスピスで死亡。後にこの年の「災厄」の最初の犠牲者であることが明らかに。
・倉持…夜見山北中学の生物部の顧問をしている教師。
・千曳辰治…現在は夜見山北中学第2図書室の司書。32年前には夜見山北中学で3年3組の担任を務めていた社会科教師であった。「現象」についての考え方を想に伝えた。4月いっぱい一身上の都合で学校を休職していたが復職した。29年前の「始まりの年」から今年度まで「ある年」に「災厄」のせいで死んだ「関係者」の名前や死因、「ある年」に紛れ込んだ「死者」の名前を記録したノートを持っている(これは改ざんの影響を受けないのか?)。
【夜見山北中学の生徒とその関係者】
・葉住結香…夜見山北中学3年3組の生徒で茶髪の美人。元演劇部。想に好意を抱いており、トランプを使った籤引きで二人目の「いないもの」を選ぶときに、意図的にジョーカーを引き、想と関係を深めようとした。しかし、想の気を思うように引けず、友人たちからも不吉な存在として避けられるようになったため、精神的に不安定になり、ゴールデンウィーク明けについに「いないもの」の役を放棄してしまう。
・矢木沢暢之…夜見山北中学3年3組の生徒で、想と3年間同じクラス。3組の男子委員長に立候補する。暢之の叔母と想の叔父の晃也は高校時代同級生で、一緒に「災厄」に巻き込まれ、暢之の叔母は死亡する。
・継永智子…夜見山北中学3年3組の女子委員長。5月25日の正午前に強風によって剥がれた体育館の屋根の一部が首に刺さって死亡し、「災厄」の二人目の犠牲者となった。
・幸田俊介…夜見山北中学3年1組の生徒。想が所属する生物部の部長。眼鏡を掛けている。6月25日にムカデに噛まれアナフィラキシーショックを起こし、水槽に頭を突っ込んでガラス片で首を傷つけて死亡し、「災厄」の4人目の犠牲者となった。
・幸田敬介…俊介の双子の弟で3年3組の生徒。テニス部員で眼鏡は掛けていない。6月27日に俊介を火葬する火葬場に向かう途中で車が転落事故を起こし、父の徳夫、母の聡子と共に死亡。「災厄」の5人目から7人目の犠牲者となる。
・江藤留衣子…夜見山北中学3年3組の女子生徒で「対策係」の一人。「いないもの」を二人にすることを提案した。3年前の「災厄」のときに同姓の女子が3年3組に在籍していたことを鳴が覚えていた。後に在籍していたのは、いとこであることが判明。
・多治見…夜見山北中学3年3組の男子生徒で「対策係」の一人。
・森下…夜見山北中学3年3組の生徒。生物部の幽霊部員。
・島村…夜見山北中学3年3組の女子生徒。結香と仲が良かったが、結香と一緒に下校中に自転車との衝突事故に遭い怪我をしたことで、結香を避けるようになる。
・日下部…夜見山北中学3年3組の女子生徒。結香と仲が良かったが、結香と電話で通話中に曾祖母の具合が悪くなったことで、結香を避けるようになる。
・小鳥遊純…夜見山北中学3年3組の女子生徒。夜見山北中学に進学した弟が生物部に入部。
・小鳥遊志津…小鳥遊純の母。5月25日に交通事故に遭い深夜に死亡し、「災厄の」3人目の犠牲者となった。
・牧瀬…夜見山北中学3年3組の女子生徒。控えめで影が薄い。4月から入院する予定があったため二人目の「いないもの」に立候補しようとしたが、結香に邪魔されて実現しなかった。結香が「いないもの」から脱落後、泉美の提案で結香の代わりに二人目の「いないもの」になってもらうことになった。4月以降、病院の内科病棟に入院中。
・青沼…夜見山北中学3年3組の生徒。多治見の幼なじみ。敬介の死後、想に声を掛けてくるように。
・中邑誠也…夜見山北中学3年3組の生徒。サッカー部。敬介の死後、想に声を掛けてくるように。
・福知…夜見山北中学3年3組の女子生徒。継永の親友だった。敬介の死後、想に声を掛けてくるように。
【その他の登場人物】
・夜見山岬…32年前、夜見山北中学3年3組在籍中に死亡した人気者だった生徒。彼の死後も教師や生徒が、彼が生きているように振る舞ったせいで、翌年から「災厄」が始まった。
・仲川貴之…夜見山第一高校の2年生で、「夜見山タウン通信」の発行人の某氏の縁者で、「夜見山タウン通信」の関係者の運転するバイクのタンデムシートに乗っているときに事故に遭い死亡。結香の兄の親友の弟であった。
・碓氷…夜見山市立病院精神神経科の医師。想の担当医。妻を亡くし娘と暮らしている。
・碓氷希羽…碓氷医師の娘。小学2年生。
〈パート1の感想〉
パート1(全体の約30%)の内容をしっかり理解するためには、以上のような膨大なデータのまとめが必要であった。本書がこのシリーズの初見だという読者はもちろん、前2作を読了している読者ですら、簡単には頭の中で整理しきれないのではないか。
本書は、読者が主人公とともに誰が「死者」なのかを推理していくのが、犯人捜しと同じ「本格」的楽しみとなっているものだと想像していたが、全体の1割を越えたばかりのパート1チャプター2のラストで、いきなり「死者」の正体が明らかに。その後も何も大きな動きはなかったが、パート1の終盤でついに不幸な出来事が起こり始める。さて、この後どのような展開が待っているのだろうか…?
とりあえずパート1を読了して思ったこと。面白みのない地味な捜査や、登場人物のどうでもいい過去がダラダラ語られ続けるミステリと比べたら断然面白いのは間違いないのだが、このシリーズには根本的な問題がある。
読めば読むほど疑問なのは、なぜ30年もの長い間、この異常な状況が放置されているのかということだ。
いくら他に話を広めてはいけないという雰囲気が関係者の中に蔓延していたとしても、関係者の誰一人としてこの状況を止めようと動かないのはおかしい。少なくとも3年3組の出身者か学校関係者は、次の犠牲者を出さないために、こういう「現象」が起こっているのだということを世間に広めるべく動くのではないか。そういう行動を過去に起こそうとした人物が、ことごとく死亡したという事実があれば別だが、そのような描写は少なくとも本作の中にはない(過去の2作にはあったかもしれないが記憶にない)。3年生から3組の教室だけをなくすなどという生ぬるい対応ではなく、「廃校」を含めた大きな動きにつながるはずではないのか。
関係者の記憶がすぐに失われてしまうというのなら仕方ないが、「申し送りの会」などが開催されていることを考えれば、学校関係者の中ではきちんと引き継ぎが行われているのだろう。
自分が3年3組出身者だったら、またこの「現象」のことを知っていたら、引っ越ししてでも絶対に自分の子どもをこの中学には進学させないようにするだろうし、この「現象」を知らずに自分の子どもをこの中学に入学させてしまって、その結果「災厄」で子どもを失ったら、過去の「現象」を知っていながら放置していた学校関係者を絶対に許さない。「非科学的だからどうしようもない」という問題ではない。「申し送りの会」の設定自体が、あまりにのんきすぎる。3年3組の担任を引き受ける教員もいるわけがない。
そもそも1年間に1つの中学校で特定のクラスの生徒が多数死亡したら、それだけで大ニュースである。まして、それが続けばマスコミが取り上げないわけがない。30年もの間、この異常事態がマスコミにかぎつけられないというのは、この「現象」には、関係者の記憶を改ざんするのみならず、マスコミの取材能力を激減させる力も備わっているに違いない。
〈パート2の感想〉
パート1の最後での死亡者が「災厄」の最初の犠牲者であることが確定し、幸田家の4人が死亡した時点で「災厄」による死者は7人にものぼった。この幸田家の自動車事故で運転手が1名死亡しているのだが、3年3組の直接の関係者ではないため、これは「災厄」による被害者にカウントされないらしい。関係者だけではなく、無関係の人物が巻き添えで死亡することは過去の作中にもあったのだろうか。ここはちょっと引っかかった。こういうことがあるなら、なおさら「現象」や「災厄」の話は外部に広がりやすいと思うのだが…。
フラストレーションを感じつつ読み進めていると、それまでの連続する死亡事故以上の見せ場がやって来る。「現象」によって3年前の正確な記憶を失った鳴に代わって、榊原が想に電話で3年前に実践した「災厄」の止め方を伝える場面がチャプター11の452ページから始まるのだ。
「現象」の力と思われるノイズによって邪魔が入るものの、予想外に的確に榊原の意図は想に伝わる。そして鳴自身にも。すなわち、@年度初めにクラスに紛れ込んだ「死者」を殺せば、その年の「災厄」が止まること、そして、Aその死者を見抜く力が鳴の持つ「人形の目」に備わっていることである。
この後、さらに予想外の展開が待っている。新しい義眼を「人形の目」に戻し、クラスの集合写真を使って一刻も早く「死者」を見つけようとする鳴の行動に、やっと期待通りの展開になってくれたと安心したのも束の間、写真の中から「死者」である泉美を発見し、想に伝えようとしたその時、二人の目の前に泉美が現れるのだ。そして482ページで躊躇なく想と泉美の前で泉美を「死者」だと断言する鳴。
「この年には死者が二人紛れ込んでいて、泉美以外のもう一人が想ではないか?」と疑いつつ読んでいたのだが、その可能性を一瞬で排除した直後に泉美本人と主人公の想を前に「死者」を指摘するなんて、この展開は面白すぎる。さすが綾辻行人である。
しかも「災厄」を終わらせるべく何の迷いもなく釘抜きで泉美を殴り殺そうと彼女を襲う鳴と、最初は必死でそれを止めるものの結局は事実を受け入れ、泉美を自分の手で濁流へ突き落とそうとする想の行動もインパクト大。そして、自分が「死者」であることを否定しながらも、想と同様に思い当たることを次々と思い出し、自ら濁流の中に身を投げた泉美の行動によって、想と鳴以外の人の記憶から泉美の存在が消えてパート2終了。本作最後となるパート3の展開が全く読めない。やはり綾辻行人は凄すぎる。
〈パート3の感想〉
冒頭、泉美消失の現場に立ち会った想と鳴のみにしか泉美についての記憶がない様子が語られる。泉美が存在していたときに想と一緒に撮った泉美の写真については、写真自体の存在がなくなるわけではなく、想には泉美が見えて、それ以外の人には泉美の姿だけ見えないという現象が起こることが明らかになる(おそらく鳴にも見えるはず)。これは本作からの新しい設定と思われる。
「死者」についてのさらに新しい設定は、復活期間に「死者」が購入したものが、消失した後も残るというもの。消失後の泉美の部屋に、彼女が買ってあった映画の前売り券が残っていたのを想が見つけて回収するシーンがあるが、これはどうなのか。
泉美の制服などの衣類は3年前のものをそのまま使っているだろうから大丈夫だろうし、泉美が不要品と見なして捨てたものは関係者の記憶の改ざんで対処できるかもしれないが、食料品が泉美の消失後にそのまま冷蔵庫などに残っていたら、それはかなりまずいと思うのだが。部屋全体にしても、どんなに几帳面な人でもそれなりに生活感が残っているだろうし。映画の前売り券については、「死者」が復活中に強い想いを込めていたものについてのみ残り続けるという設定なのだろうか。
パート3の序盤では、泉美の亡霊のような描写が2回出てきて読者をドキドキさせる。1回目は泉美の母の繭子を想が見間違えたものだった。2回目は限りなく本物っぽく、想を病院に入院している牧瀬の病室へ誘う。ここで江藤と出会って一緒に牧瀬を見舞う想は何事かを納得するのだが、私にはまったく分からない。なにか仕掛けがあるのだろう。種明かしは後の楽しみに取っておこう。
そして、上記の謎を残したままチャプター14からまた物語が大きく動き出す。9月3日から担任の神林が学校に来なくなり、4日には結香の友人だった島村が来なくなり、5日には黒井というこれまで未登場だった生徒が家を出たまま行方不明に…。そして、6日になって、神林が2日に自宅の浴室で溺死していたことが明らかになる。生徒に事情を説明した千曳は「災厄」によるものではないと言い、自分が3年3組の担任を引き継ぐことになったと告げる。
その日、矢木沢たちと一緒に下校していた想は、ビルの解体現場で落下物の下敷きになって小学生が死亡する事故を目撃してしまう。その被害者の名は田中優次。その兄は夜見山北中学3年3組の田中真一であった。
「災厄」は終わっていなかったのだとすると、神林が9人目の犠牲者、田中優次が10人目の犠牲者ということに。8月には一人も犠牲者が出ていなかったため、「災厄」は完全に終わったものと思われていたが、実はまだ知られていなかっただけで、8月にも犠牲者がいたのだろうか。
そして、9月7日、病休中だった島村が自室のベランダから転落死し、続けて市のゴミ処理場で黒井の死体が発見されたという知らせが入ってチャプター14が終わる。これで犠牲者は12人に。展開が加速し続けているが、ここまで639ページでちょうど全体の80%を越えたところ。
そしてチャプター15に入った途端、9月9日、3年3組の生徒・多治見の姉の美弥子が遊園地で事故に遭い死亡。これで犠牲者は13人。
10日には身を守るため登校してこない生徒も多数現れる。結香もその一人で、想が電話をすると、鳴が2回も自宅にやって来て気味が悪いと訴える。
11日には、家族を守るため矢木沢が想の目の前で屋上から飛び降りる。3年3組の生徒の死後も家族に「災厄」が降りかかった前例があることを彼は知らなかったのだ。千曳は想に、家族どころか関係者以外の人間が巻き込まれたことがあることも伝える。パート2前半での幸田家の人間を乗せた車の運転手が死亡したことに疑問を感じたことを先に述べたが、あれは決して例外ではなかったのだ。
12日、矢木沢は辛うじて死をまぬがれ、アメリカ在住の赤沢春彦・さゆり夫妻の長女・ひかりも911に巻き込まれず無事が確認される。そして千曳の言葉によって、また一つ私の疑問が解消される。マスコミなどの部外者はこの「現象」のことを知っても「現象」の力によってすぐに忘れてしまうとのこと。私が皮肉で述べたことは真実だったので驚いた。
そして地震が発生し、3年3組教室では、犠牲者の机上に置かれた花瓶が割れた直後に大量のハエが教室に侵入し、さらに異臭による集団搬送騒ぎが発生。他の生徒と一緒に気を失った想は、鳴から聞かされたはずの3年前の「災厄」で死亡した、鳴の双子の妹の名前を思い出せないことに気がつく。
搬送された病院で意識を取り戻した想は、軽症だったクラスメイトが集められた大部屋に向かう途中、碓氷先生の娘・希羽に出会う。そして彼女の予言通り強風が発生し、大量の鳩が窓に激突、その直後に取材中のヘリが病院に墜落し爆発を起こす。
ヘリの操縦士、同乗していた記者とカメラマン、3年3組の江藤と中邑、関係者ではない患者と職員の計7人が死亡し、関係者の犠牲者は、それまでの13人から15人に(ヘリの乗員3人の中に関係者がいたという情報もあり)。
そして再び泉美の幻影に導かれて牧瀬の入院している病室にやってきた想は、ついに真相にたどり着く。年度初めに泉美の提案で「いないもの」を2人にしたせいで世界のバランスが崩れ、過去に前例のない年度途中での二人目の「死者」の発生という事態が起こっていたのだ。その二人目こそが3年前の「災厄」の最初の犠牲者だった鳴の双子の妹の藤岡美咲だった。
彼女の母の藤岡美都代の再婚より、藤岡美咲は牧瀬美咲として復活し、年度途中で関係者の記憶を改ざんした。鳴には死亡した双子の妹とは別に3つ下の妹がいるという記憶が、想をはじめとした3年3組の生徒には、「申し送りの会」のときに、4月からの入院を理由に「いないもの」に立候補しようとした牧瀬という名の存在感の薄い女子生徒がいたという記憶が植え付けられたのだ。
病室で眠っている美咲を見つめる想の前に、同じように真相にたどり着いた鳴が現れる。「いないもの」が二人いることに気づいた彼女には、集合写真に写っていなかった3人、つまり想と結香と牧瀬の3人のうちの誰かが二人目であることが明らかであった。「現象」が始まったときに確認済みの想を除けば、可能性があるのは結香と牧瀬しかいない。9月10日に結香を「人形の目」で確認した鳴は、牧瀬こそが二人目の「死者」だと確信したのだ。彼女は何のためらいもなく果物ナイフで「妹」の美咲を「死」に還す。
今度こそ本当に「災厄」は終わり、危険な状態だった矢木沢は奇跡的に回復する。それでもこの年は「夜見山現象史上最凶の年」とのちに呼ばれるようになるのではと考える想。しかし、実際には関係者の死者数は3年前と同じ15人である。確かに、関係者の可能性もある無関係な人がさらに4人も死亡していて、ヘリの墜落によって病院に大損害が出ていることも考えれば「最凶」と言えなくもないが、これだけの死者が出たらいつの年が一番かなんて関係ないようにも思うが。8月に犠牲者が発生しなかったことについても、うやむやになっているのがきになるところ。
あとがきで著者は完結編となる続編の執筆を予告している。鳴が想に来年の春にでも「湖畔のお屋敷」に行こうと行っているので、そこが舞台になるのであろうか。しかし、夜見山北中学の3年3組を舞台にしないと話は盛り上がらないと思うので、2つの場所で並行して事件が起こるような流れになるのかもしれない。碓氷希羽が物語の中心に絡んでくるのは確定みたいなので、彼女が中学3年になる7年後くらいが舞台になる可能性も。
個人的な3段階評価は2.8くらいで★3つ。5段階評価なら4.7くらい。前2作読了済みが条件だが、文句なしのおすすめ。
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