その弐 江戸川歩全集

2001/5/25更新!

 小学生のときにはまった江戸川乱歩(1895〜1965)。今一度読み返してみようと思い立ったのは大学生の時。ちょうどそのころ全30巻という文庫版の全集が発刊されたのですが、その時は貧乏で買うことができず、就職後古本屋をまわって探したもののなかなか見つかりません。それもそのはずで、「角川文庫で表紙は天野喜孝氏」と思いこんでいたのに、本当は「春陽文庫で表紙は多賀新氏」だったのです。角川にも一応乱歩文庫が存在するみたいですが、天野氏が表紙を担当したのは講談社の文庫でした。とにかく乱歩作品は多数の出版社から出ており、結局、春陽文庫のシリーズを99年9月より少しずつ購入していくことにしました(春陽堂はデビュー直後の乱歩を独占状態にしていた出版社)。以下はそのレポートです。★マークで記した評価についてですが、乱歩文法に慣れていくにしたがって話の展開が読めるようになってきてしまうため、後半になるほど厳しめになっている傾向があるかも…。

  13巻「猟奇の果」は長編1作品のみを収めたものなのですが、今までの作品になく、なぜか後半が別作品のような雰囲気で、計算されたものなのか、執筆中の作者に何かあったのか気になるところです。内容的には、展開が乱暴すぎて今一つ。14巻の「黄金仮面」には、フランスの怪盗、アルセーヌ・ルパンが登場するのですが(このことを知っていると、この話を読む楽しみが半減するものの、春陽堂さんの文庫の表紙の折り目のあらすじ紹介では、見事にバラしてしまっているので、まあいいでしょう)、日本人の恋人の名がなんと「不二子」!名字こそ「峰」ではなく「大鳥」ですが、こんなところに「ルパン三世」のモチーフがあるとは驚きです。真の乱歩ファン、ルパン三世フリークの方々の間では常識なのかも知れませんが…。

 18巻「人間豹」についてですが、なんで「豹人間」じゃなくて「人間豹」なんでしょう?まあそれはいいとして、この話に登場する女優・江川蘭子は、乱歩が自分の名前をもじって名付けたのでしょうね。その名もずばり「江川蘭子」という作品があるのですが、春陽堂の乱歩全集の中には収められていません(ちなみに30巻にもレビュー団の女王として水木蘭子なる女性が登場します)。19巻「黒蜥蜴・湖畔亭事件」に収められている「黒蜥蜴」は女盗賊という設定がなかなか面白い分、彼女の感情が描き切れていない点が惜しまれます。

 20巻「緑衣の鬼」はかなり早い段階で謎解きができました。手頃なレベルだと思うので皆さんも挑戦してみては?決して話が稚拙なわけではなく、結構楽しめるはずです。それにしても、乱歩は女性を水槽に入れて「人魚」と表現するのがお好きなようで、今までの作品の中にも「パノラマ島奇談」をはじめとして何度も出てきましたが今回もそういうシーンがあります。21巻「大暗室」にも、これまた彼がよく登場させる「一寸法師」とともに登場。独特の感性ですね。そしてこの「大暗室」には再び女優・ラン子が登場。今度は江川蘭子ではなく、花菱ラン子という別人ですが、自分の名前をもじって異性のキャラにつけるというのは、乱歩本人に異性への変身願望があったからではないでしょうか?男性ならば、自分の名を女性風にもじられるのは、どちらかと言えば不愉快に感じることだと思うので、そんな気がしてなりません。

 22巻「悪魔の紋章」は以前にも読んだことがある作品です。「鏡の部屋」「生きながらの埋葬」といったおなじみのモチーフも印象的ですが、犯人の正体のパターンも結構おなじみなので、20巻のように分かる人にはすぐに分かってしまいます。しかし決して駄作というわけではなく(どちらかといえばかなり傑作の部類に入るかも)、ミステリー初心者の方には十分オススメできます。23巻「幽霊島」も、かなり最初の段階で先が見えてしまいますが、終盤の主人公の心の葛藤の描写はなかなか。もう少しヒロインの秘密を隠す工夫があれば、相当の傑作だと思います。24巻「地獄の道化師」の1作目である同名の話は、作者お得意の「死体の意外な隠し場所」のテーマで幕を開けます。この話のような石膏像はもちろん、蝋人形とか、マネキンとか、お化け屋敷の人形とか、衆人の目にさらされながら気づかれないという死体の出し方が、乱歩は非常にお気に入りのようです。ちなみにこの話は、作者のちょっとズルいワナのせいで犯人当てがちょっと難しいかも。2作目の「一寸法師」はさらに犯人を当てるのが難しくなっており、読み応えあり(乱歩自身はこの作品が気に入らず、この作品を書き上げた後、休筆宣言をして放浪の旅に出てしまったそうですが)。そういえばこの「一寸法師」も乱歩はよく登場させますね。

  25巻「暗黒星・闇に蠢く」に収録されている「闇に蠢く」にはトルコ風呂と称するマッサージをしてくれる温泉が登場するのですが、のちにトルコ人のクレームによってソープランドに名称が変更になった(中学生の頃だったかな)トルコ風呂の語源はここにあるのではないかと思ってしまいました。話中での温泉宿は、決していかがわしくない普通のマッサージをしてくれるところで、当時の日本にはトルコの公衆浴場ではそういういろいろなサービスをしてくれるという話だけは伝わっていたようです。で、何が言いたいかというと、この宿屋の主人がお客にしてくれるマッサージの描写が非常に気持ちよさそうで妙にひかれるのです。自分もしてもらいたい!という気持ちになること間違いなしなのでご一読を。肝心のストーリーについてですが、この話がある男が拾った原稿の内容であるという設定が生かされていないのが気になるものの、二人目の主人公といえる人物の登場のほか、下表でコメントしたように見所も多く、結構いけてる話だと思います。

 26巻「幽鬼の塔・恐怖王」について、後者はそのチープなタイトル通り大したことはないのですが(乱歩自身が駄作であることを桃源社版全集11巻のあとがきで認めているらしい)、前者はなかなかの傑作です。推理の材料が全て読者に提示されるわけではないので、読者が推理を試みるには無理があるのですが、個人的に好みです。ただ、作中に登場する謎のグループが主人公の探偵に「あなたが捜査    していることは殺人などの犯罪には関係ないから手を引いて欲しい」と頻繁に頼むのですが、オチを読むとやっぱり殺人がらみだったというのは、なんだかなぁという感じ。27巻「化人幻戯」は50歳の明智探偵が事件を解決する話で、少々雑な感じがするのと、乱歩には珍しく男女の愛欲がやたら描かれているのが特徴。一応どんでん返しは用意されていてそれほどがっかりすることはないのですが…。28巻「影男」は乱歩作品の総集編のような作品。多数の名を持ち(1巻に登場する春泥という名も)人の秘密を探り出し、ゆすることを趣味とする男が主人公なのですが、これがいきなり時間とお金のあるのにまかせて好き勝手に生きる典型的な乱歩作品主人公。話はSM趣味の社長のゆすりから始まり、貧乏人を救ったり、婦人の秘密結社に潜り込んで死体隠蔽を手伝ったり、殺人請負会社にアイディアを提供したり、地底のパノラマ世界を訪れたり、密室殺人に巻き込まれたりと、とにかく乱歩節てんこもり。とどめに明智探偵も登場して、まとまりはないですが、にぎやかな作品となっています。

 29巻「十字路」は、愛人の部屋で妻を絞殺してしまった伊勢省吾が、死体を運ぶ途中にある十字路で事故を起こし、気が付くとなんと車内の死体が増えていたというお話。なんとか2つの死体を処理するも、悪徳探偵の南と花田警部に追いつめられていくさまが、まさに「刑事コロンボ」のよう。「影男」と同時期に作られた作品で、死体の隠し方に関するうんちく話などは両作品ソックリな部分もあったりして興味深いのですが、「影男」にも見られる乱歩定番のおどろおどろしい幻想的シーンがほとんど見られないのも特徴。乱歩独特の「妖しさ」がなく、なんか現代風なんですよね。このように、構成的にも表現的にもあまり乱歩らしくない作品ですが、かなりよくできた話だと思います(というわけで三ツ星つけました)。一緒に収録されている「盲獣」は、正反対に乱歩の世界観が存分に表現された作品ですが、だらだらとした展開のあと、作者が書き飽きてきて途中でうち切ったような感じの作品でぱっとしません。

 歩らしくないといえば、30巻「三角館の恐怖」もそう。アメリカの作家ロジャー・スカーレットの本格推理小説「エンジェル家の殺人」の翻訳作品だから当然なのですが、他の乱歩作品にはほとんど見られない、最初の人物紹介一覧、部屋の見取り図、そして読者への挑戦状などが出てきます。現代でも十分通じる作品ではないでしょうか。

 

NO

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収録作品名

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上段/あらすじ(トリックにはふれていませんのでご安心を)&下段/作品へのコメント

オススメ度
01 陰獣 陰獣 昭和 3 実業家夫人を脅迫する大江春泥の謎を追求する私の前に現れた真実とは? ☆☆☆
犯人はある程度予想がつくがそれを絞りきらずに余韻を残して終わるのがミソ
盗難 大正14 ある宗教団体が集めた寄付金が奪われたが、その泥棒もだまされていた? ☆☆
これも解決は曖昧。シリアスに探偵の心理を描く陰獣に対しこちらはコミカル
踊る一寸法師 大正15 いじめられっこのピエロが美人玉乗りのお花を使った獄門の芸を始めるが…
サーカスの一団を舞台にした猟奇小説。乱歩の不気味な世界がよく出ている
覆面の舞踏会 大正15 普通の道楽では得られない刺激を求め、秘密クラブに入会したわたしだが…
今となってはありがちな話ではあるが、乱歩らしい妖しい世界観を感じさせる
02 パノラマ島奇談 パノラマ島奇談 昭和 2 男は瓜二つの富豪になりすまし自分の夢想したパノラマ島をつくりあげた… ☆☆☆
別人になりすます話はありがちだが、その過程と男が作り出した世界が強烈
白昼夢 大正14 群衆に囲まれ自分の殺人を告白する男。しかしその演説を誰も信じていない ☆☆☆
子供の頃にも読んだが、この6ページほどの短編の恐怖密度は結構高かった
昭和 6 S村の線路脇で女の死体が発見され、いいなずけの村長の息子に疑いが… ☆☆☆
途中で犯人の見当はつくし強引な設定が気にはなるが十分推理を楽しめる
火縄銃 昭和 7 密室で男が火縄銃で撃たれて死んだ。自殺でも他殺でもない死因とは?
超古典的なトリック。これがオリジナル?それとも海外作品の引用なのか?
接吻 大正14 山名宗三は新妻が課長の写真に接吻しているところを目撃し動揺するが…
話自体は大したことはないが結末を読者の想像にまかせるところがいいかも
03 屋根裏の散歩者 鏡地獄 大正15 鏡に異常な執着を持つ男は、内部を鏡ではりつめた球体を作りその中に…
技術の発達した現代ではあらゆる映像を見ることができるためピンとこない…
押絵と旅する男 昭和 4 汽車の中で額を抱えた男に興味を持ったわたしは彼から不思議な話を聞く…
哀愁を感じさせるノスタルジックでメルヘンチックな話。高校教科書にも採用
火星の運河 大正15 10ページにも満たない短編の中に異様で不思議な世界が綴られている…
これは一体何なのか…作者のその時の心象風景をそのまま描いたのでは?
目羅博士の不思議な犯罪 昭和 6 主人公(乱歩?)は動物園で会った青年から不思議な殺人の話を聞かされる ☆☆
こんなことが実際に起こり得るのかどうかは別にして独特のムードのある作品
昭和 4 柾木愛造は初恋の女性を永遠に我がものにすべく恐ろしい方法を選んだ… ☆☆☆
乱歩の異常な世界が存分に味わえる一作。気持ち悪さはなかなかのもの
屋根裏の散歩者 大正14 下宿屋の屋根裏を散歩する遊技に夢中の郷田三郎はある殺人を思いつく… ☆☆☆
明智小五郎が登場するメジャーな作品。犯人の思考に共感を覚えること多し
疑惑 大正14 ある家の主が死んだ。家族はみな身内を疑って異様な雰囲気が家を包む… ☆☆
ネタあかしになってしまうが無意識の殺人という一風変わった切り口が新鮮
04 D坂の殺人事件 何者 昭和 4 陸軍少将の屋敷で息子が撃たれた。現場に残された足跡の謎をとかねば! ☆☆
オーソドックスな話だが、探偵が二人登場する点が当時は新鮮だったかも
D坂の殺人事件 大正14 古本屋の細君が殺され、わたしは知人の明智小五郎が犯人ではと推理する ☆☆☆
乱歩初期の名作として名高いこの作品。読者が探偵気分にひたれる点も○
一人二役 大正14 無職の遊民Tは変装して別人になりすまし自分の妻のところへ通い始める… ☆☆
ミステリーでもなんでもないのだが、純粋に楽しめる短編。個人的に結構好き
算盤が恋を語る話 大正14 主人公Tは想いを寄せるS子に算盤を使った暗号でのアプローチを試みる… ☆☆
日常生活の中に暗号を持ち込んだほのぼのした話。こういうのもアリなのね
恐ろしき錯誤 大正12 火事で妻を失った北川氏は、その死に友人を疑い、ついに復讐を果たすが… ☆☆
どのあたりがが「恐ろしき錯誤」なんだろうと読んでいると最後のオチで納得
赤い部屋 大正14 秘密クラブのメンバーが集う赤い部屋で一人の男が殺人の告白を始める… ☆☆☆
これは最後までいろいろと仕掛けがあって、かなり楽しませてくれる作品
黒手組 大正14 賊徒・黒手組にさらわれた富豪の娘を取り戻すため明智が謎の暗号に挑戦 ☆☆
この誘拐事件の概要をつかむのは難しくないが、暗号解読はちょっと無理
05 人間椅子 人間椅子 大正14 手紙を読んでいた女はいま座っている椅子の中に手紙の主がいることを知る ☆☆☆
スリリングな展開といい、あっといわせる結末といい、文句なしの傑作
お勢登場 大正15 悪女お勢の夫・格太郎は子どもとかくれんぼの途中、長持ちに隠れるが… ☆☆
94年公開の映画「RAMPO」のモチーフになった作品。実写だとかなり怖い
毒草 大正15 わたしが友人に語った堕胎薬になる植物の話を貧しい妊婦が聞いていた…
長屋での貧しい生活は現代人にはピンとこないが、これはいたたまれない話
双生児 大正13 死刑囚が刑執行を前に今まで誰も気づかなかった双子の兄殺しを告白する ☆☆
映画「双生児」の原作?他人になりすます話は多いがバレないものは珍しい
夢遊病者の死 大正14 夢遊病者の彦太郎は父親とケンカした翌朝父親の死体を発見し驚愕する…
最初からこういう話なんだろうなという見当がついてしまうところがちょっと…
灰神楽 大正15 庄太郎は恋敵を殺し目撃者がいないことをいいことに他人に罪をかぶせるが ☆☆
いきなり殺人シーンから始まるところが印象深い。ラストもありがちだが納得
木馬は回る 大正15 回転木馬でラッパを吹く50過ぎの格二郎は切符きりの娘に想いを寄せるが…
貧乏人のわびしさがひしひしと伝わってくる話だが最後は中途半端で不満
指環 大正14 汽車の中で2人の男が再会。1人はスリで、以前スリとった指輪が話題となる
A、B2人のセリフのみで構成された5ページの短編。斬新だが話は今ひとつ
幽霊 大正14 平田氏を敵としてつけねらっていた辻堂の死後、平田氏は幽霊に悩まされる
最初の方は謎を解くべく結構読めるのだが、最後のオチがかなり物足りない
人でなしの恋 ? 京子は10年以上前に死んだ前の夫、門野の死因について語り始めた…
不思議なタイトルに惹かれるが、読んでみるとそれほど奇抜な話でもない。
06 月と手袋 月と手袋 昭和30 男は愛人の夫を絞殺したが愛人とともにアリバイを作って罪を逃れようとする ☆☆
現代では驚くほどのトリックではないが、ラストの警部の言葉は印象に残る
地獄風景 昭和 6 喜多川治良右衛門が作り出した異様なジロ娯楽園で連続殺人事件が起こる ☆☆
「パノラマ島奇談」を思い起こさせる舞台設定だがこちらはれっきとした推理小説
モノグラム 大正15 公園で昔恋した女の弟と偶然出会った栗原は彼女に想われていたことに驚く ☆☆
最初の男2人の出会いの不思議にまず引き込まれ、最後の落ちでまた感心
日記帳 大正14 私は死んだ弟の日記から彼が暗号を用いてある娘に求婚していたことを知る ☆☆
暗号自体はちょっと強引な気がするが、最後の2行の切なさが印象に残る
07 心理試験 心理試験 大正14 蕗屋は下宿屋の老婆を殺し金を奪うことに成功したが探偵明智の登場で… ☆☆☆
乱歩の代表作の一つに挙げられる傑作。大抵の短編集には収録されている
二銭銅貨 大正12 松村は1枚の二銭銅貨をヒントに紳士盗賊が隠した大金を遂に発見するが… ☆☆☆
これも乱歩の代表作の一つ。暗号ネタの中では比較的無理がなく納得できる
二廃人 大正13 温泉場で出会った斎藤と井原という2人の廃人はお互いの人生を語り合う… ☆☆
「夢遊病者の死」とは違ったアプローチの夢遊病をテーマにした話。悪くない
一枚の切符 大正12 左右田は松村に富田博士の夫人殺し事件の概要を語った後疑問を提起する ☆☆
前半は凡庸な展開に退屈するが後半は挽回。最後の左右田のセリフがいい
百面相役者 大正14 Rに芝居に連れて行かれた私は、役者にまつわる犯罪の可能性を聞かされる
最初はグロな話で引きつけられるがかなり荒唐無稽で最後も予想通りのオチ
石榴 昭和 9 旅館で猪股という探偵談義の相手を見つけた私は過去の事件について語る ☆☆
トリックもオチもミエミエなのだが、意外と最後の方は結構読ませてくれた
芋虫 昭和 4 時子は戦争で言葉と聴力と両手両足を失った夫の面倒を3年みていたが… ☆☆☆
乱歩らしい不気味さを出しつつ文学的で真の悪人が登場しない点が好印象
08 ペテン師と空気男 ペテン師と空気男 昭和34 いたずらの名手・伊東と出会った野間は、彼の美しい妻に惹かれていった…
最後にやっとトリックらしきものが出てくるが後はしょーもないジョークの数々…
堀越捜査一課長殿 昭和31 警視庁の堀越捜査一課長はある日見知らぬ男からの分厚い封書を受け取る ☆☆
ほとんどが手紙の内容で構成された形式の工夫はもちろん内容も悪くない
防空壕 昭和30 市川清一は大空襲の中、逃げ込んだ防空壕の中で1人の美しい女性と出会う ☆☆
最初は作者の空襲体験記かと思うくらい詳細な記述が印象的。オチは…
妻に失恋した男 昭和32 南田は妻に愛されないことを苦にピストル自殺をしたものと思われていたが… ☆☆
現代の警察になら簡単に真相がバレていたことだろう。当時でもバレそうだが
昭和35 ピアニストが襲われ右手を切断された。医師は気づかれないように気を遣うが ☆☆
たった3ページの超短編ながら、なかなか不気味さを味あわせてくれる
09 偉大なる夢 偉大なる夢 昭和18 五十嵐博士の偉大なる夢、超高速機開発を妨害する敵国スパイの正体は? ☆☆☆
いかにも戦時中に書かれたと言う感じのスパイ小説。犯人の意外性は強烈?
断崖 昭和25 資産家の女は夫殺しについてK温泉近くの断崖の上で男と語り出すが… ☆☆
法的に罰せられない相手の心理の動きを利用した殺人というテーマが面白い
凶器 昭和29 名探偵・明智は現場を訪れることなく庄司巡査部長の担当事件を解決する
この時点での明智は50歳を越えた設定。人物も内容もパワー不足を感じる
10 孤島の鬼 孤島の鬼 昭和4〜5 青年・蓑浦の恋人・初代に続き探偵・深山木も殺された。系図書きの秘密とは ☆☆☆
丸々1冊がこの話なのだが、これは現代でも十分通じるスリリングな傑作!!
11 蜘蛛男 蜘蛛男 昭和4〜5 美術商・稲垣と名乗る毒蜘蛛のような怪紳士に畔柳博士と野崎青年が挑む ☆☆
途中から犯人がバレバレの上に、またしても最後はパノラマ館ネタで今一つ
12 魔術師 魔術師 昭和5〜6 蜘蛛男の一件後、休養中の明智小五郎は宝石商・玉村家の怪事件に遭遇 ☆☆
明智の恋やラストの一ひねりなど興味深い点もあるにはあるが全体的に平凡
13 猟奇の果 猟奇の果 昭和5 資産家の次男・青木は友人の品川そっくりの男に出会い事件に巻き込まれる
乱歩にありがちな主人公設定。後半、雰囲気がガラリと変わり、しかも荒削り
14 黄金仮面 黄金仮面 昭和5〜6 突如東京に現れた黄金仮面と、名探偵・明智小五郎との戦いが繰り返される
春陽堂さん、最初のあらすじ紹介で、AL=ルパンとバラしてしまうのはダメよ!!
15 吸血鬼 吸血鬼 昭和5〜6 骸骨男の魔の手から、未亡人・倭文子と恋人・三谷を明智は救えるのか!? ☆☆
動機はともかく犯人は分かりやすい。手の込んだ話だが…。タイトルも「?」
16 白髪鬼 白髪鬼 昭和6〜7 子爵の敏清は妻と親友に裏切られ殺されかけるが、墓から復活し復讐を誓う ☆☆
15巻と比べるとシンプルで読みやすいが読者にあっと言わせるものがほしい
17 妖虫 妖虫 昭和8〜9 ミスニッポン、ミストウキョウを次々に殺害した謎の怪人・赤サソリの正体は?
老探偵・三笠竜介という新キャラ効果もないに等しい駄作。犯人もバレバレ…
18 人間豹 人間豹 昭和9〜10 弘子、蘭子と続けて恋人を人間豹に殺された神谷芳雄は明智に助けを求める
パターンは「妖虫」とほぼ同じ。あえて優劣をつけるならこちらが少しマシか?
19 黒蜥蜴・湖畔亭事件 黒蜥蜴 昭和9 女盗賊黒蜥蜴は、宝石商・岩瀬の持つ「エジプトの星」を奪うため明智に挑む
黒蜥蜴の心理の描き込み不足のため、ラストでの彼女の行動が生きてこない
湖畔亭事件 大正14 レンズ狂の私はH湖畔の湖畔亭にてレンズ越しに浴場での殺人を目撃する ☆☆
犯人について読者に色々想像をめぐらせる作りが本格推理していて良いかも
20 緑衣の鬼 緑衣の鬼 昭和11 緑衣の鬼に翻弄される探偵・大江白虹。二人目の探偵・乗杉龍平も登場し… ☆☆
乱歩文法をマスターすれば事件の真相は早い段階で分かる。できは悪くない
21 大暗室 大暗室 昭和11〜13 親子二代にわたる復讐劇。有朋友之助が大暗室の主・大曽根竜次に挑む!
前半はありがちな復讐話だが、終盤の舞台となる大暗室の設定が魅力か?
22 悪魔の紋章 悪魔の紋章 昭和12〜13 探偵・宗像博士が会社社長・川手氏に迫る三重渦の指紋を持つ復讐者と戦う ☆☆
良くできた話なのだが冷静に読んでいれば犯人の見当はすぐについてしまう
23 幽霊塔 幽霊塔 昭和12〜13 北川光雄は叔父が買い取った長崎の屋敷で謎の美人・野末秋子に出会う ☆☆☆
先も読めるし現代では驚くべき内容もないが終盤の光雄の葛藤の描写は○
24 一寸法師・地獄の道化師 地獄の道化師 昭和14 オープンカーから線路上に投げ出された石膏像から流れる血。明智探偵登場 ☆☆☆
犯人当てが簡単には行かないように作者の巧みな工夫がなされている
一寸法師 大正15〜昭和2 紋三は人の腕を持ち歩く一寸法師を目撃。想いを寄せる夫人の娘の腕か… ☆☆☆
明智探偵登場で状況は二転三転、「地獄の道化師」以上に犯人当ては困難
25 暗黒星・闇に蠢く 暗黒星 昭和14 資産家・伊志田鉄造一家が次々に襲われ長女綾子が疑われるが明智は… ☆☆
「偉大なる夢」より意外性がなく「大暗室」よりはマシかなという感じの復讐劇
    闇に蠢く 大正15 画家・野崎三郎は温泉での愛人・お蝶の失踪について謎の男・進藤を疑う… ☆☆☆
犯人の意外性、主人公の終盤での変容の様など、乱歩の世界を堪能できる
26 幽鬼の塔 幽鬼の塔 昭和14〜15 探偵・河津三郎が謎の男の持つバッグをすり替えると男は五重塔で縊死する ☆☆☆
オチはそれほどではないが最後の最後まで謎が謎を呼ぶなかなかの傑作!
    恐怖王 昭和6〜7 恐怖王が頭取の娘の遺体を盗み出しゴリラ男との婚礼写真を撮る真意とは? ☆☆
すっかり定番化した死体の展示、結構バレバレの恐怖王の正体など、今一つ。
27 化人幻戯 昭和29〜30 大河原義明の秘書となった庄司武彦は義明の妻に惹かれる。そして殺人が。 ☆☆
早い段階で犯人の予想はつけやすいが、その動機はなかなか斬新かも?
28 影男 影男 昭和30 無数の名を持ち、人の秘密を探り出し、ゆすることを趣味とする影男vs明智! ☆☆
短編をつなげたような乱歩のエッセンスが各所に盛り込まれたお得な作品?
29 十字路 十字路 昭和30 妻を殺した伊勢は死体を運ぶ途中事故に遭うが、車内に男の死体が増えて… ☆☆☆
完全犯罪をなしとげたはずの伊勢が追いつめられていくコロンボのような話。
    盲獣 昭和6〜7 不気味な盲人の唯一の楽しみは女性の肌の触覚を味わうことであったが…
盲人の語る触覚芸術論の部分は興味深くはあるが作品自体はしまりがない。
30 三角館の恐怖 三角館の恐怖 昭和26 双子の当主の仲違いにより正方形の館を二分した2つの蛭峰家で起こる殺人 ☆☆☆
翻訳物だが読者への挑戦状もある本格推理小説。現代でも通じる面白さ。
 合作探偵小説シリーズ

 2000年11月12日に古本屋にて春陽文庫「江川蘭子」を発見。乱歩全集の巻末の既刊目録に、著者・江戸川乱歩他として「江川蘭子」を含め7冊が紹介されていたので、他の作家の作品も収めた短編集だと思っていたのですが、なんと推理小説作家6名による1本のリレー小説でした。乱歩は1番手。企画としては面白いかもしれませんが、内容はかなり苦しいものがあります。発表当時は結構評判で、その人気にあやかって、江川蘭子、江戸川蘭子といった芸名をつけた踊り子が実在したそうです。

 

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文庫タイトル名

乱歩以外の作家名

発表年

上段/あらすじ(トリックにはふれていませんのでご安心を)&下段/作品へのコメント

オススメ度
01 江川蘭子 横溝正史・甲賀三郎・大下宇陀児・夢野久作・森下雨村 昭和 6 2歳の時両親を目前で殺された蘭子がたどる数奇な運命を6人の作家が描く。 ☆☆
5番手の夢野氏がうまくまとめたおかげで一応の格好はついているものの…。
02 黒い虹 水谷準・大下宇陀児・森下雨村・海野十三・甲賀三郎 昭和 6 鎌倉での母子殺人の後、共通のルビーの指輪を持った女性が殺されていく。
6番手の甲賀氏が懸命にまとめようとしているが無理がありすぎ。これは駄作。
 探偵クラブシリーズ

 なんと乱歩には9編も代作が存在するそうです。岡戸武平の手になる「蠢く触手」が春陽堂から刊行されているので読んでみました。活動写真が登場するシーンがありますが、映画「RAMPO」にあった同じようなシーンはこれがモチーフ?怪老人や青眼鏡の正体が結構バレバレなのはご愛敬として、話のオチはなかなか良くできていると思います。乱歩とは一応打ち合わせをしたそうですが。代作と言われているあとの8編については「犯罪を猟る男」「あ・てる・てえる・ふいるむ」「角男」が横溝正史、「陰影」「蜃気楼」が水谷準、「渦巻」が井上勝喜によるもので、「疑問の戦死者」「不倫の芝居」の作者は不明とか。

 

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上段/あらすじ(トリックにはふれていませんのでご安心を)&下段/作品へのコメント

オススメ度
01 蠢く触手 岡戸武平 昭和 7 部長が交代してから、あずま日日は次々スクープに成功。情報提供者の老人の正体は?
良くできた設定、さらに探偵明智の登場。当時の読者は誰も代作とは思わなかっただろう。
 乱歩の作品を読んでいると、退屈のあまりに殺人という行為に走るという話が多いように思います(「陰獣」「屋根裏の散歩者」「赤い部屋」など。殺人までいかなくとも退屈している登場人物が非常に多い)。乱歩は世の中を「退屈でつまらない、くだらないもの」という目で見ていたのでしょうか。乱歩自身は人気作家の常で、創作活動(原稿の締め切り?)に追われ退屈どころではなかったと思いますが、もし彼に創作活動の機会が与えられていなかったら、彼も退屈のあまり犯罪に手を染め、歴史に残る犯罪者になっていたかもしれません・・・。

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