その参 おすすめ国小説〈マイクル・クライトン編〉

2008/11/4更新

 マイクル・クライトンはハーヴァード大学で人類学を専攻し、1964年に最優秀の成績で卒業。その後、同大学医学部に進学し、博士号を取得した 秀才です。様々な分野の豊富な知識が作品の随所に散りばめられていて読む者を圧倒。職場の同僚に「だまされたと思って読んでみて」と『アンドロメダ病原体』を手渡されたのが最初の出会いでした。彼の作品に興味を持った人は、この『アンドロメダ病原体』から入ることをオススメします。 彼の作品の多くがそうなのですが、自分の中の既成概念を次々に破壊されていく快感がたまりません 。2008年11月4日にガンのため66歳で亡くなったというニュースが流れて驚かされました。もう彼の新作が読めないかと思うと残念でなりません。ご冥福をお祈りいたします。

 

記号

作品名

発行日

コメント(★マークはオススメ度)

 
SFク2-1 アンドロメダ病原体 76/10 初めて読んだクライトン作品。チープなタイトルに期待していなかったのだが目からウロコ! ★★★
ノンフィクション インナートラヴェルズ 93/ 5 上下巻2冊に渡る著者の遍歴を綴った作品。彼に強い興味を抱いている人以外には睡眠薬?
ノンフィクション 五人のカルテ 96/ 2 NHKで放送されたER(緊急救命室)の原点となった医学ノンフィクション。医学博士の本領発揮。 ★★
NVク10-1 失われた黄金都市 90/ 7 最初からずっとドキドキさせてくれる秘境冒険小説。著者の幅広い専門知識が生きている作品。    ★★
NVク10-2 スフィア−球体−(上) 映画化もされた傑作。海底深くから発見された巨大な物体はタイムマシンか!?宇宙船か!? ★★★
NVク10-3 スフィア−球体−(下) これも『アンドロメダ病原体』同様に目からウロコの作品だった。現在上下巻ともに貸し出し中。 ★★★
NVク10-4 サンディエゴの十二時間 93/ 3 米国務省情報調査部員の主人公が大規模な殺戮計画を阻止しようと戦う話。結構普通だった。     ★★
NVク10-5 緊急の場合は 93/ 3 アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作品。著者が若干26歳にして発表した医学サスペンス。面白い!  ★★
NVク10-6 ターミナル・マン 93/ 4 精神病患者の脳にコンピュータを埋め込み発作を制御しようとするが…。インパクト大の傑作。 ★★★
NVク10-7 北人伝説 93/ 4 北人とはバイキングのこと。10世紀の北欧が舞台のドラマ。実はあまり印象に残っていないのだ。
NVク10-8 ジュラシック・パーク(上) 93/ 3 言わずとしれた彼の代表作。映画も最高だった。化石や恐竜大好き人間にはたまらない傑作。  ★★★
NVク10-9 ジュラシック・パーク(下) 93/ 3 映画と小説は微妙に違うので映画しか見ていない人でも楽しめる。自分も映画が先だった。 ★★★
NVク10-10 大列車強盗 87/ 7 19世紀が舞台の強盗小説。著者の持ち味は豊富な知識を生かした近代モノだと思うがこれは○ ★★
NVク10-11 ライジング・サン 93/10 日米経済摩擦ミステリ。洋モノにありがちな日本文化を勘違いしている部分もあるが気にしない! ★★★
NVク10-12 ツイスター 96/ 6 映画の脚本仕立てになっているが、実際これは映画でないと迫力は伝わらない。奥さんとの共著。 ★★
NVク10-13 ディスクロージャー(上) 97/ 4 女性によるセクハラがテーマ。映画化された数年後に読んだのだが(映画は未見)最高に傑作 ★★★
NVク10-14 ディスクロージャー(下) 97/ 4 描き込みはすごくてもそれを読むのが苦痛な小説が多い中でこれはホントぐいぐい読ませる! ★★★
NVク10-15 ロスト・ワールド(上) 97/ 5 ジュラシック・パーク2。人気作品のパート2は成功しないというが、T2もDH2も当たったし…。  ★★★
NVク10-16 ロスト・ワールド(下) 97/ 5 1作目以上に映画と小説の内容が違っているので、映画しか見ていない人は是非一読を!! ★★★
NVク10-17 エアフレーム−機体−(上) 00/ 9 テーマは飛行機事故。限られた期間内に原因を見つけねばならない主人公の緊張が伝わる! ★★★
NVク10-18 エアフレーム−機体−(下) 00/ 9 事故の原因追求を妨げる組合、上司…。しかし主人公の最大の敵は報道!作者の報道批判作品 ★★★
NVク10-21 タイムライン(上) 03/12 砂漠で発見された謎の老人と14世紀の遺跡から発掘された現代のレンズの意味するところは!? ★★★
NVク10-22 タイムライン(下) 03/12 中世の歴史と量子力学が学べ冒険小説としても楽しめる傑作。主人公は現代に帰還できるか? ★★★
NV1109 プレイ-獲物-(上) 06/ 3 失業中のジャックはナノテク開発に携わる妻の異変に気がつく。制御不能に陥ったナノマシンの恐怖 ★★★
NV1110 プレイ-獲物-(下) 06/ 3 自己増殖を始め予想以上の速さで進化を続けるナノマシン。ジャックはナノマシンを殲滅できるのか? ★★★
NV1146 恐怖の存在(上) 07/ 8 気象災害を引き起こすテロリストの陰謀。タイトルの「恐怖」とは実はテロリストに対しての恐怖ではなく… ★★★
NV1147 恐怖の存在(下) 07/ 8 我々の地球温暖化に対する「常識」を根底からくつがえす衝撃的な問題作がここに完結!必読です!! ★★★

※発行日の欄の日付は文庫化された時のもの

  最近のクライトン本・読書状況

 ィスクロージャーを読んで思ったのは、とにかくディティールに無駄がないこと。どこも読み飛ばそうという気がしない。結末の伏線としてだらだらとどうでもいい描き込みをしている小説家は見習って ほしいですね。そういう小説家はそれを材料に結末を推理してみろというのでしょうが、できることとできないことがあります。なんかやたら難易度が高かった創生期のRPGみたいな。なんか話がそれましたがクライトンはやっぱイイ!ということで 。

 アフレームは、2000年4月に久々に購入したクライトン作品。今回のテーマは飛行機事故。もちろんただ事故を描くのではなく、様々な障害を克服しながら1週間というリミットの中で事故原因を究明しなくてはならない女性主人公を中心に据え、彼女と報道との戦いを描いています。敵は報道のみでなく、高圧的な上司、挙動不審な部下、噂に踊らされて主人公をねらう組合員など、クライトンお得意のスリリングな要素も忘れていません。あとがきにエッセイをよせた航空評論家は、このストーリーのラストに物足りなさを感じたようですが、主人公のストレスを共有しつつ読み進めてきた一般の読者の多くは、ラストの主人公同様スッキリとした気分で読み終えることができると思います。

 イスターは、映画を観たので小説の方を読まずにいたのですが、エアフレームと一緒に購入。他の作品とはかなり毛並みの違う作品で、なんと奥さんとの共作であり、しかも脚本仕立てになっています。つまり最初から映画化を前提に作られた作品なんですね。小説が映画化されると、小説の方が面白かったということも多々ありますが、やはり自然現象を扱ったものだと迫力ある映像にはかないません。よって、この作品に関しては映画を観れば十分でしょう。

 年3か月ぶりに彼の新作を読むことになりました。といっても2004年8月に購入した今回の作品「タイムライン」は、半年以上も前に文庫化されている映画の原作本。アリゾナの砂漠で身体に異常のある老人が発見され、さらにフランスの14世紀の遺跡から現代の眼鏡のレンズが発掘されるという展開に読者はまず惹きつけられることになります。そしてその2つの現象に関わっていると思われるハイテク企業ITCが、主人公達に命じた内容は行方不明になった教授を14世紀のフランスから連れ戻すこと。要するにタイムトラベルの話なのですが、ありふれたタイムマシンものとはひと味違います。ITCの人間は「時間旅行などできるわけがない」とばっさり切り捨ててしまいます。で、量子テレポーテーションという話になるのですが、これがなかなか興味深いのです。そして、結局彼らが訪れることになる14世紀の世界も実に生き生きと描かれており、その世界でひたすら追われる身となる主人公達の姿は、恐竜に追われる「ジュラシックパーク」の主人公達とだぶって見えたりもします。現代へ帰還することのできるタイムリミットが刻々と迫る中、次々に主人公達に襲いかかるトラブルに、読者は並々ならぬスリルを味わうことができ、さすがクライトンと言いたいところですが、主人公達が物語の間中、教授に会うためとはいえ、ひたすら城の抜け道探しに没頭しているのは今ひとつ華がないように思えますし、ラストシーンでのITC社長のドニガーに対する主人公達の処遇も「?」という印象を受けました。そもそも、ITCがこの事業にこだわる理由に対して主人公達は怒りを覚えるわけなのですが、そんなに怒るようなことか?というのが正直なところ。結構ありがちな普通の理由なのです。筆者はエピローグでさらに物語に味付けをしていますが、これも感動的といえば感動的ですが、ある意味とってつけたようで微妙なところ。劇場版はもっと話にメリハリをつけて面白くしてあるそうなので、そっちの方がオススメと言えるのかもしれません。いくつかケチをつけましたが、誤解しないでほしいのは、この小説が決して駄作なわけではないということ。その証拠に表中の評価には★3つつけさせていただきました。読んで損はない1冊でしょう。

 作には気をつけていたつもりだったのですが、2008年5月に4年ぶりに発見した新作文庫は2年前と1年前に発売されていたものでした…。まずは2年前に発売されていた「プレイ−獲物−」を読んだのですが、軍用に開発していたナノマシンが暴走し、ウイルスのように自己増殖、そして急速に進化して人間を襲い始めるというクライトンらしい斬新なストーリーにはさすがの一言。1年前に発売されていた「恐怖の存在」は 、環境テロリストを題材にしたタイムリーな作品ですが、単なるエンターテイメント作品で終わらない衝撃的な内容の社会派小説です。なんと誰もが知っている「地球温暖化」を真っ向から否定する問題作。物語はフィクションですが、作品内で提示される膨大な資料の数々はすべて実在のモノ。 環境保護に関する考え方が根本的に変わってしまうこと請け合い。
 (ジェニファー)「地球温暖化なんてものはね−存在しないのよ。たとえあるにしても、むしろ世界の大半に益をもたらすものだわ」
 かといってクライトンは環境保護が不要だとは言っていません。
 (ケナー)「死刑制度に反対だからといって、犯罪の取り締まりに無関心なことになるのかね?」「死刑制度に反対しつつ、犯罪者を取り締まる方法はあるはずだ」
 そして、タイトル「恐怖の存在」の深い意味が明らかになり、さらに納得。
 (ホフマン)「つまりじゃな、わしがいおうとしているのは、社会統制のことなんじゃよ、ピーター。あらゆる主権国家では、ある程度まで市民の行動を統制する必要がある。秩序を保たせ、十分に従順にさせておくためにの。(中略)そして、むろんのこと、社会統制のためにいちばん効果的なのは、恐怖を通じてコントロールすること。それに尽きる」「一九八九年まで、およそ五十年に渉って、西側諸国は市民を絶えざる<恐怖の極相>に置いておった。東側の恐怖。核戦争の恐怖。共産主義の恐怖。鉄のカーテン。悪の帝国。いっぽう、共産圏諸国は共産圏諸国で、それを反転させた恐怖を国内に蔓延させておったわけじゃ。西側諸国に対する恐怖をな。ところが一九八九年の秋、突如として、これらの恐怖は消えてなくなる。消滅する。なくなってしまう。影も形もなく。<ベルリンの壁>の倒壊は、ここに恐怖の真空地帯を産み出した。しかし、自然も国家も真空をきらう。なにかでその空白を埋めてしまわねばならん。」(エヴァンズ)「つまり、環境危機が冷戦の代わりに持ちだされたと……?」
 是非とも多くの人に読んでほしい、個人的にはクライトン作品の中でベストの作品です。

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